毎年のように豪雨災害が発生している。2020年は7月豪雨。熊本では球磨川が氾濫し手大きな被害が出た。全国各地で「経験したことのない雨量」や「100年に一度の増水」などが報じられたことは記憶に新しい。本書『人に寄り添う防災』 (集英社新書)は近年とみに「災害列島化」しつつある日本の状況を振り返り、専門家の立場から防災対策の再考を促すものだ。
著者の片田敏孝さんは1960年生まれ。東京大学大学院情報学環特任教授。日本災害情報学会会長。専門は災害情報学・災害社会工学。災害への危機管理対応、災害情報伝達、コミュニケーション・デザイン等について研究するとともに、内閣府中央防災会議や中央教育審議会をはじめ、国・外郭団体・地方自治体の多数の委員会、審議会に携わり、防災行政の推進にあたっている。著書にロングセラーとなっている『人が死なない防災』(集英社新書)などがある。
阪神・淡路大震災や東日本大震災で、多くの日本人は漠然と地震や津波の怖さについては敏感になっている。やがて大地震が来ると言う予測もあり、地域によっては津波や高波への備えを強化しているところもある。
しかしながら、本書は、地震や噴火などの「地象災害」よりも、近年、頻発しているのは「気象災害」だと指摘する。大地震は一度に甚大な被害をもたらすが頻度は少ない。一方の気象災害は毎年のように発生するようになり、対策が追い付いているとは言えない。
豪雨災害多発の一因になっているのが地球温暖化だ。海水温が高くなり、海水が蒸発しやすくなって水蒸気の量が増大、一度に降る雨の量も増えている。
台風について、本書に興味深いデータが掲載されていた。一つは勢力。巨大化しやすくなっている。南方の洋上で900ヘクトパスカルを切るパワフルな台風が頻発するようになった。気象庁は将来、中心気圧が850ヘクトパスカルを切るような史上最強の台風が登場することも予想しているという。
もう一つの特徴は、以前よりも高緯度で出現する台風が増えていること。日本列島の近海でも海水温が高くなっているので、緯度でいえば八丈島ぐらいのところでも台風が発生している。1951年から2015年までの台風の平均発生緯度は北緯16度。台湾のはるか南だったが、最近は北緯33度近くで発生したケースもあるという。台風の進路も不安定になり、逆走したり迷走したりすることもある。こうした場合、台風が日本近辺に長くとどまることになり、それだけ台風本体の襲来に先立つ降雨の量も増えることになる。
2019年には台風15号が千葉で猛威をふるい、19号が日本列島に長居して関東、甲信、東北地方を中心に記録的豪雨をもたらした。18年には西日本豪雨があった。この年は8月12日から16日まで台風が5日連続で発生するという史上初の異常事態にもなった。この年は大阪府北部地震も発生しており、台風と地震で支払われた保険金額は1兆7000億円を突破、東日本大震災の1兆3200億円を上回ったという。
本書は以下の構成。
はじめに――「自粛の要請」とコミュニケーション 第1章 荒ぶる自然災害──被災地でいま起こっていること 第2章 日本の防災の大転換 第3章 行政主導の防災の限界──ゼロリスク期待の幻想 第4章 地域社会は災害リスクとどう向かい合うべきか 第5章 災害に向かい合う人の心情を理解する 第6章 コミュニティ防災の本質──地域で防災を考える
上述のように、地震も怖いが、確実に毎年のように襲来するのは台風や集中豪雨だ。「特別警報」が出すぎだという批判もあるが、日本列島を取り巻く環境が激変しているのだから仕方がないといえるだろう。
かつては「スコール」は南方や、せいぜい沖縄の風物詩だった。しかし、近年はあちこちで経験するようになった。北海道でも台風や集中豪雨の被害が出るようになっている。
日本の治水対策は過去の降雨実績に基づいている。地球温暖化によって雨の降り方が変わってきていることを考えると、洪水災害が今後さらに多発するであろうと推定される。災害の変質・激甚化に対して、日本の防災をどう組み立てなおすのか。そして私たちはどう向きあうべきなのか。本書は具体例に基づいた「命を守るための指針」も提言している。
BOOKウォッチは関連で、『水害列島』(文春新書)、『地形と日本人』(日経プレミアシリーズ)、『災害から命を守る 「逃げ地図」づくり』(ぎょうせい)、『宅地崩壊』(NHK出版新書)、『命を守る水害読本』(毎日新聞出版)などを紹介済みだ。
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