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もしも、戦国大名がウチの会社の社長だったら?

企業として見た戦国大名

 戦国大名を企業経営者になぞらえて分析したのが、本書『企業として見た戦国大名』(彩図社)だ。切り口のユニークさにひかれて手に取ってみた。信長、秀吉、家康はもちろん、有名どころの13大名が登場する。最終的な勝者になったのは家康だが、その他の大名もそれぞれに指導力を発揮しながら、「お家=我が社」の発展と生き残りのために尽力していたことがわかる。

大名家にキャッチコピー

 著者の真山知幸さんは1979年生まれ。同志社大学法学部法律学科卒業。出版社を経て独立。著述家、偉人研究家。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』『トンデモ偉人伝』『君の歳にあの偉人は何を語ったか』など著書多数。

 本書は以下の構成。キャッチコピーを眺めているだけで、引き込まれる。

 織田家 実力主義でトップが恐いベンチャー企業
 豊臣家 企業買収で急成長した新興企業
 徳川家 人材を生かして組織力を強化したホワイト企業
 武田家 アピール上手だけど内情は危ない老舗企業
 上杉家 努力や苦労が報われないブラック企業
 毛利家 一大グループを作った理想的なホワイト企業
 今川家 ベンチャーに追い込まれた名門企業
 北条家 従業員ファーストの大手企業
 真田家 すき間産業で生き抜いた中小企業
 大友家 地方で急成長したグローバル企業
 伊達家 したたかな社長率いる体育会系企業
 朝倉家 カリスマ社長とベテラン社員が支えた老舗企業
 長宗我部家 中央進出をもくろんだ上昇志向の地方企業

 ベンチャー、ホワイト、ブラック、老舗、新興、名門、大手、中小など、現代の企業に通じる分類をしている。確かにその通り、と思う大名が少なくない。キャッチコピーを見ながら、「これは我が社とそっくり」と感じる読者もいるかもしれない。

「ワンマン社長」と「ミスター成り上がり」

 織田家は「トップが恐い」会社だと形容している。誰もが頷くことだろう。「ワンマン社長」が「即断即決の実行力」で権力の座を駆け上がったからだ。部下は「実力主義」で抜擢したが、「成績次第では、転勤やクビも容赦なく」という恐怖政治でもあった。最後は最有力部下の明智光秀に寝首をかかれる。本書は、「もう少しだけ部下に寛容なマネジメントをしていたならば、クーデターを起こされることもなく、天下統一を成し遂げていたかもしれない」と惜しんでいる。

 秀吉は「一代で成り上がったみんなの人気者」。とにかく徒手空拳。素性すら定かではないが、「日本史の中でも、異例の大出世を遂げた人物」「ミスター下克上」ということはよく知られている。「信長のように暴君的なイメージもなければ、家康のように腹黒く狡猾なイメージもない」ということで、今も庶民人気がある。

 一代で一家を築いた豊臣家は、まさしくベンチャー企業の雄。創業者は何度も名前を変えながら頂点に上り詰めた。下っ端社員として織田家に雇用され、「汚れ仕事」や「難事業」をこなし、「本能寺の変」という「お家の一大事」で圧倒的な行動力を見せつけて一気に役員会の主導権を握る。その後、次々に周辺国を巻き込んで肥大化していくスピード感は、ベンチャーのダイナミックな企業買収と似ているという。かくして秀吉は一時期、天下人として君臨したが、病死後にほどなく同社は倒産してしまった。ベンチャーの危うさを見せつけた一家でもあった。

功罪に目配り

 本書はこのように、戦国の英雄たちの栄枯盛衰を、よく知られた歴史やエピソードをちりばめながら今日の企業の姿と重ね合わせ、歴史講談として上手にまとめ上げている。単に持ち上げるだけでなく光と影、大名たちが経営に与えた功罪にきちんと目配りしている。

 版元は、本書の切り口を以下のように説明している。

 「私たちが生きる現代社会では、各企業がしのぎを削って競争し、従業員の雇用を守りながら、利潤を追求している。組織が大きければ大きいほど、強大なパワーを持ち、市場を我が物顔で跋扈する。一方で、スタートアップしてまもない企業が独自の技術で市場を創出し、時には大企業をもしのぐ勢いを見せることもある」
 「織田信長、豊臣秀吉、徳川家康といった名だたる戦国大名たちもまた、現代企業の経営者と同じく、人材をリクルートし、育成して、成果を上げるべく、トライアンドエラーを繰り返していた。勇猛果敢にみえる戦国武将たちも、マネジメントに苦悩しながら、暗中模索し、失敗と成功を繰り返しながら、組織のリーダーとして、悩み多き日々を過ごしていたのだ」

 本書は、大河ドラマや、歴史物語が大好きな読者はもちろん、諸大名の名前は知っているものの、実人生についてはあまり知らないという人にとっても参考になる。特に中小企業の経営者にとっては、身につまされる話が多いのではないだろうか。信長、秀吉、家康以外の各地の大名も登場するので、地域的な広がりがあり、続編が期待される。

戦国のダークサイド

 BOOKウォッチでは関連書をいくつか紹介済みだ。『戦国大名の経済学』(講談社現代新書)はより深く、「経営者」としての大名たちの手腕について踏み込んでいる。平時においては、支配している領地を円滑に運営するための資金が必要であり、河川改修や道路の整備など、今でいう公共事業もやらなければならない。戦時に備えて軍事装備を近代化し、城を頑強に作り替える必要もある。こうした資金をいかにして調達するか。そのためにどのような産業を興し、領地を活性化させるか。農業生産の拡大はもちろん、鉱山開発、海外との貿易、楽市楽座を通じた商取引の振興など様々な手立てが講じられていたことが克明に記されている。

 『飢餓と戦争の戦国を行く』(吉川弘文館)や『耳鼻削ぎの日本史』(文春学藝ライブラリー)は、「華やかな戦国大名の合戦物語とはまるで違う、悲惨な戦争の実情」を余すところなく描く。大河ドラマでは放映されることが少ない戦国時代の戦いのダークサイドを知ることができる。敗者は捕獲され、奴隷として海外に売り飛ばされることも少なくなかった。『移民と日本人』(無明舎出版)には、すでに16世紀末に奴隷として南米にまで売り飛ばされていた日本人の話や、ローマに派遣され帰国した少年使節団が、道中の世界各地で日本人奴隷を目撃して驚愕していた話も出てくる。

 戦乱では、食糧などの調達は途中の村で略奪することが普通だったようだ。「七回の餓死に遭っても、一度の戦争に遭うな」という言い伝えは各地に残っているという。耳鼻削ぎという「いたって惨酷なる風習」も行われた。信長軍が伊勢国長島で一向一揆を討伐したときは、百姓の男女2000人の耳鼻を削いでいたという。秀吉の朝鮮出兵では女子供も含めて何万もの「鼻」が持ち帰られた。その怨念は今も韓国に渦巻く。

 このほか『戦国日本と大航海時代――秀吉・家康・政宗の外交戦略』(中公新書)、『水軍と海賊の戦国史』(平凡社)、『本能寺前夜――西国をめぐる攻防』 (角川選書)、『信長の革命と光秀の正義』(幻冬舎新書)、『徳川家康の神格化』(平凡社)、『豊臣家臣団の系図』(株式会社KADOKAWA)、『徳川家が見た戦争』(岩波ジュニア新書)、『戦乱と民衆』 (講談社現代新書)なども紹介済みだ。

  • 書名 企業として見た戦国大名
  • 監修・編集・著者名真山知幸 著
  • 出版社名彩図社
  • 出版年月日2020年9月23日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数四六判・253ページ
  • ISBN9784801304758
 

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