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超秀才が「バカ」の効用を説くようになったワケ!

バカという生き方

 精神科医には本を出す人が少なくないが、その中でも和田秀樹さんは群を抜いている。多い年は1年間に30冊以上、これまでに数百冊は出版しているに違いない。その最新刊の一つが本書『バカという生き方』(実務教育出版)だ。これまでに出版した本とはやや色合いが異なるのではないかと感じたので、紹介したい。

年をとってからしっぺ返し

 冒頭、和田さんは高齢者専門の精神科医になったことがラッキーだったと語っている。多くの高齢者の晩年を見ることで、かつては政治家や経営者として成功した人でも、人に慕われていないと意外に惨めな晩年を送ることを知ったという。

 「高い地位に就いて、人をバカにしていい気になっても、年をとってからしっぺ返しを食うことが多い。それに気づいたのだ」

 そして、ものの見方も変わったという。

 「昔は、私も人をバカにする人間だった・・・自分を特別に頭がいいとは思っていなかったが、成績が上がっていないのに、どんくさい勉強のやり方を変えずに、名門大学に入れない人間を見て、要領も悪いし、頭も悪いとバカにしていたし、それを口に出したことも多い・・・でも、時間が経ってみると、彼らはその真面目さから、出世はともかくとして、きちんとした仕事をしていることが多い」

 というわけで、バカが嫌いだった和田さんが、様々な人生経験からバカの効用について書いたのが本書というわけだ。

バカを軽んじていた過去を悔い改める

 和田さんは1960年生まれ。灘高から東大医学部卒の超秀才ということはよく知られている。受験参考本も多数書いている。評者が、かつて和田さんの知人から聞いた話では、和田さんは灘高、東大入試、医学部と一番街道を突っ走った人だという。秀才の中の秀才、超秀才だ。実際、評者もさる機会に和田さんの話を伺ったことがあるのだが、いったん記憶したことを鮮明に覚えているという、いわゆるネガ的な記憶力の持ち主だなと思った。

 そんな超「頭がいい」はずの和田さんが「バカ」の意義に目覚め、「バカ」を軽んじていた過去を悔い改め、「バカ」の効用を説いているところが本書の面白さだ。

 本書は以下の構成。

 1章 バカの効⽤ 目の前の世界を変えていくチカラ
 2章 バカと劣等感  バカと付き合わないと損をする
 3章 バカの知恵 変えられるところから変える
 4章 バカの楽しみ 小さな度胸試しで正解のない世界を生きる

 本書の一部を紹介しよう。

 「優秀な人、自分に自信がある人、満ち足りた人は、人をバカにすることがない・・・だれかを自分の下に見て快感を感じる、などという心理から遠いのである」
 「自分がだれかを否定したり、バカにし始めたときは要注意ということである。成長が止まって、踊り場にいるか、もしかして後退さえしている可能性がある」
 「人をバカにする裏側には、人を格下扱いにすることで、自分が上位にいる気持ちになりたいという心理がある。じつはちっとも自分の位置は変わっていないのに、錯覚で偉くなった気がするのである。それはとても危ない兆候である」

 こうした精神状態を精神分析の世界では「劣等感の否認」というそうだ。

スティーブ・ジョブズや車寅次郎

 もともと日本では、「弱い者いじめ」は良くないという道徳観があった。それがいつのまにか「いじめ」がはびこり、ネットでの罵詈雑言があふれる世の中になる。男というだけで女性の上位にいると思ったり、単純に日本人は朝鮮出身の人よりも優れていると思ったりする、根拠もなしに「自分が上位にあると思っている」人が増え、それと符節を合わせるかのごとく、上の者、権力を持つ者に媚びへつらう、忖度するということも普通のことになったと和田さんは指摘する。嫌韓、嫌中が目立ち始めたのは、ジャパン・アズ・ナンバーワンの夢が破れたあとのことだったとも。

 こうした世相は、結局のところ、社会の成長を止めてしまい、「国家の衰退」にもつながりかねないということだろう。

 本書では、「バカ」と言われた人がよみがえり、社会に貢献した例がいくつか示されている。アップルのスティーブ・ジョブズや、車寅次郎らだ。豊臣秀吉や、田中角栄元首相らは本当はバカではないのだが、「バカになれた人」として登場する。わかりやすく言えば、世の中を変えるのは「バカ者」であり、異論を排除しないことが人も組織もイノベーティブに保つ秘訣だという。

人をバカにしていたころの私はバカだった

 和田さんはこれまで何冊もバカに関連する本を書いてきたが、自分自身も俎上に載せて書いたのは初めてだという。「人をバカにしていたころの私はバカだった。読者にはそうなってほしくない」という思いで書いた、という。

 一方で、和田さんは自分自身もある種の人からすると、バカに見えるだろうとも書いている。東大医学部卒だが、大学の本流からはずれ、受験勉強法の通信教育を起業し、執筆に加えて映画監督までやっている。しかし、やりたいことをやって、生きたいように生きて、バカでよかったと思っている。

 「バカのほうが生き方が楽だし、発想も解き放たれる」
 「バカになったほうが、あるいは自分もバカなのだ思えるほうが、こころの緊張がほぐれて、人に優しくなれるということを伝えたかったのである」

 自分をバカだと認識することの利点の一つに、他人の優れた個性や長所がよく見えるようになる、ということがある。本書で和田さんは、他者との共同作業の中で、そうした思いに至った体験なども書いている。このあたりは、組織内の様々な人材をまとめる立場になったことがある人なら、たいがい同感するのではないだろうか。

  • 書名 バカという生き方
  • サブタイトル正解のない世界を楽しむチカラ
  • 監修・編集・著者名和田秀樹 著
  • 出版社名実務教育出版
  • 出版年月日2020年9月30日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判・246ページ
  • ISBN9784788925137

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