新型コロナ感染拡大による休校期間中、中高生の妊娠相談が増加したという。年ごろの子をもつ親は、わが子に正しい性知識が身についているかと案じつつ、親としてわが子になにを伝えるべきかと悩むことだろう。
本書『わが子に伝えたいお母さんのための性教育入門』(実務教育出版)は、著者の直井亜紀さんが幼稚園、保育園、小学校、中学校の保護者に伝えている「家庭で伝えるいのちと性」に焦点をしぼってまとめた一冊。これまで4万5千人以上の子どもと2万人以上の大人が受講し、数々のメディアで紹介された内容を初めて単行本化。
「この本には、『早くわが子に伝えたい!』と思ってもらえる内容を、ギュッとつめこんでいます。ご家庭で『性』や『いのち』を語るヒントとしてお役立ていただけたらうれしいです」
直井亜紀さんは助産師。一般社団法人ベビケア推進協会代表理事。聖母女子短期大学助産学専攻科(現・上智大学総合人間科学部)卒。2010年より、中学三年生対象「いのちの授業」が埼玉県八潮市の必修授業に取り入れられる。埼玉、千葉、東京の小中高を中心としたいのちや性に関する講演実績、企業や専門職向けのセミナー講師実績多数。2017年に母子保健奨励賞、19年に内閣府特命担当大臣表彰(子供と家族・若者応援団表彰)を受賞。
助産師である直井さんが、現在のように「性といのちの話」をするようになったきっかけは二つ。
一つ目は、当時中学一年生の娘が「セックスがこわい」「子どもを産むのがこわい」と言ってきたこと。上級生や友だちから性的な情報(多くは偏った情報)を得ていることに気づき、「わが子に対してだけではなく、まわりの子どもたちにも偏りのない『いのちと性』の話を伝えたい」と強く思うように。二つ目は、大切な人の自死や交通事故死で、いのちは突然消えることがある、一度消えたら取り返しがつかないという現実に直面したこと。「いのちについてもっと真剣に考えたい、それを伝えたい」と思うようになったという。
本書の表紙に「おうちで話すいのち・生理・射精・セックス」とある。とても家庭で話せるテーマではない気がする。しかし、冒頭のような状況が現実に起きていることからして、わが子から性について聞かれても「逃げない、隠さない、ごまかさない」「望まない妊娠や性犯罪からわが子を守る!」という親の態度がいまこそ必要のようだ。
本書は6章構成。「学校の授業と家庭で伝える性教育の区別」「どのような伝え方をすれば無防備な性行動からわが子を守れるのか」「家庭でしか伝えられない性教育」「家庭だからこそ伝えられる性教育」などを紹介している。
第1章 「赤ちゃんはどこから来たの?」と聞かれたら
第2章 「家庭で伝えるいのちと性」基本編
性教育をセックスから伝えようとする日本人
第3章 大人もびっくり! いまどきのすごい性事情
第4章 「家庭で伝えるいのちと性」実践編
子どもが聞きたいことと親が伝えたいこと
第5章 「家庭で伝えるいのちと性」実践編
心にフィルターをかけるということ
第6章 「家庭での性教育」あるあるQ&A
各章のおわりにマンガコーナーがある。幼い子どもをもつイラストレーター・ゆむいさんが、直井さんの授業から学んだことのまとめ・感想を母親目線で率直に描いている。出版社サイトで本書の紹介動画を見たが、直井さんは溌溂とした話し方をする方だった。一般的にはちょっと扱いづらい内容を明るくわかりやすく伝えている。直井さんの授業を直接受けている感覚で読んだ。
わが子に「赤ちゃんはどこから来たの?」と聞かれたら、ほとんどの親は一瞬固まり、聞こえなかったふりをするか、その場しのぎの答えを返すのではないだろうか......。
ところが、子どもが「赤ちゃんはどこから来たの?」と疑問をもつタイミングこそ、「家庭で性教育を始める絶好のチャンス」という。このとき大事なのが「ごまかさずに、子どもの年齢に合わせた表現で伝える」こと。
そこで紹介しているのが、「点」ではなく「線」で伝える「愛のストーリー」という「いのちの伝え方」。「妊娠する前にセックスをした」「お母さんの体のどこから生まれてきた」というぶつ切りの「点」ではなく、出会い、惹かれ合い、愛し合い......という長いスパンの「線」で伝える工夫をすると、格段に話しやすくなるという。
「子どもにとって、お父さんとお母さんが出会い、恋をして、デートして、プロポーズして結婚式をあげたという『愛のストーリー』は、とてもワクワクするお話です。このお話の先に、一本の『線』で妊娠や出産を伝えていけばいいのです」
小学校に入学する前ごろまでであればこうした伝え方で充分、としている。さらに、子どもから「セックスしたの?」と聞かれた場合、次のように答えればいいようだ。
まだ性行為を想定していないであろう小学三年生ごろまでの子どもが聞いてきた場合、「どこでその言葉を覚えたの? 英語を知っているなんてすごいね」「赤ちゃんが生まれるために必要なことだよ」とサラッと伝える程度で充分。一方、すでに性行為をイメージしている子どもが冷やかしで聞いてきた場合、「したわよ」とサクッと答えればいい。それでもまだ冷やかしが続く場合、「大切なことだから、家族にも話すことではないのよ」と答える。
「子どもは、『なにを言われたのか』よりも親の態度を見ています。......『毅然とした態度』、これが大事なのです」
「線」で伝える話とともに、印象的だった話をもう一つ紹介したい。直井さんは講演会で「心にフィルターをかける」こと、つまり「情報を自らジャッジできる力をつける」ことを提唱している。
子どもがアダルトサイトを見ないよう、スマホやPCにフィルターをかけることも重要。しかし、「子どもの知的好奇心は、物理的なフィルターをいとも簡単に超えていく」。そこで、物理的なフィルターとともにかけておきたいのが「心のフィルター」だという。これは「アダルト動画のなかのセックスは作りものであって、現実ではありえない」と認識できる状態のこと。
「心にフィルターをかける」ことは短時間ではできない。「『あなたが大切』という具体的なエピソードを、何度もくり返しくり返し、まるでシャワーのように浴びつづけることで身についていく」ものだという。
「心のフィルターをかけられるのは、いのちの誕生から成長までを見守りつづけている家族やまわりの大人だけなのです」
子どもを育てるなかで、親から子に性の話をするということは考えもしなかった。しかし、本書を読んでわかったのは、性教育=性交教育ではない、学校と家庭の性教育は別物、恥ずかしがったりタブー視したりする話ではない、ということ。「『性』という字は心が生きると書くように、性教育は生き方教育でもあります」――。直井さんの言葉に固定観念をとりはらわれた。巻末にある「性教育サイトの一覧」「『どうしよう!』のときのために」「『いのちや性』のおすすめ書籍(子ども向け・保護者向け)」も参考になる。
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