捜査一課の刑事(デカ)というと、一定のイメージがある。鋭い目つき。不屈の根性。取調室で容疑者を厳しく追及する――ところが本書『あなたとあなたの大切な人を守る 捜査一課式防犯BOOK』(アスコム)の著者、佐々木成三さんは、いい意味でそんな捜査一課刑事のイメージを裏切る人だ。本書掲載写真を見ると、柔和なマスク。めちゃくちゃハンサムなのである。こんな刑事さんが聞き込みに来れば、女性なら誰しも進んで捜査協力してしまうに違いないと思わせる風貌だ。
本書はその佐々木さんが、身近な防犯のイロハをやさしく説いたもの。取り立てて目新しい内容があるわけではないが、佐々木さんの風貌と同じように、柔らかな解説ぶりが際立っている。
佐々木さんは1976年岩手県生まれ。交番勤務からはじまり、埼玉県警に20年以上勤務した。うち10年間は埼玉県警察本部刑事部捜査第一課で巡査部長5年、警部補5年。デジタル捜査班の班長として、デジタル証拠の押収解析をこなし、携帯電話の精査や各種ログの解析を担当。大事件で被疑者の逮捕、取り調べ、捜査関係者からの情報収集、被害者対策、遺族担当なども受け持った。
2017年、「事件を取り締まるのではなく、犯罪を生まない環境を作りたい」という思いから埼玉県警を退職。現在は、コメンテーターとして、TVなどのメディアに多数出演している。学生を犯罪リスクから守ることを目的に設立された「一般社団法人スクールポリス」の理事も務めている。
ところで捜査一課は、主に殺人事件などを扱う部署。埼玉県警捜査第一課のHPを見ると、「業務は、殺人、放火、強盗、強制性交等、強制わいせつ、誘拐、立てこもり等の凶悪犯罪の捜査です」と書いてある。「我々捜査第一課の刑事は、『絶対に犯人を検挙する』という決意のもと『執念』と『誇り』を持って日々、凶悪犯罪と闘っています」と強調。本書がテーマとしている「防犯」とは、警察の中では職務が異なる。
ではなぜ、捜査一課畑の佐々木さんが、防犯の解説をしているのか。実は捜査一課の仕事の中で近年、ウエートが増しているのが、ネット、ITがらみの知識だ。佐々木さんはまさにその分野を受け持ち、デジタル捜査班の班長をしていた。つまり、ネットがらみの犯罪について詳しい。
本書の6章「だまされないために」は、そのあたりの話が中心になる。
・偽の公務員や銀行員にカードをすり替えられないために ・偽の警察官にだまされないために ・架空請求にだまされないために ・フィッシング詐欺に引っかからないために ・ネット上でカード情報を盗まれないために ・オンラインショッピングでカードを使われないように
などの項目が並ぶ。特に注意を呼び掛けているのはカードとスマホだ。これらが犯罪者の手に渡ると、あっという間に不正利用されてしまう。スマホは財布と同じだという。
「新型コロナ関連詐欺にあわないために」という項目もある。「助成金があるので口座番号を教えてほしい」「市役所はコロナで忙しいのでATMで手続きします」などの口実で詐欺師が忍び寄ってくる。
捜査一課の仕事は、事件が起きてから犯人を捜す、ということになるが、本書で強調されているのは、事件に遭わないようにするにはどうすればいいかということだ。「犯罪者は、社会に潜み、ターゲットを虎視眈々と狙っています」と注意を呼び掛ける。
本書「PART1 あなたの家が狙われている」では、空き巣の心理に触れている。空き巣はたいがい下見をしている。したがって、下見段階で空き巣をあきらめさせるような手だてをしておくことが重要だと強調している。
鍵はダブルロック、電信柱に近い部屋を借りない、録画機能付きのインターフォンにする、ポストに郵便物やチラシをためない、郵便箱は鍵付きにする、夜間に洗濯物を干さない、など多数の「心得」が列挙されている。電信柱に近い二階部屋は、侵入されやすい。夜中に洗濯物を干したままにしているということは「不在」を㏚しているようなもの。それが毎日のように続くと、空き巣に目を付けられる。
犯罪者はいつも、どうすれば犯行が可能かということばかり考えている。街を歩いている時も、痴漢、ひったくり、泥棒など、それぞれの犯罪者は常にターゲットを探している。したがって彼らに「スキ」を見せないように用心することが大切だと説く。
本書では合わせて116の「事件にまきこまれない」ためのノウハウも並んでいる。「あおり運転」「酔っ払いに絡まれる」などのほか、痴漢やSNSでのトラブルなどについても記されている。本書に列挙された「用心」のいくつかを心掛けるだけでも、確かに安全度が高まるに違いない。
BOOKウオッチでは関連で、『警察官という生き方』(イースト新書Q)、『肉声 宮﨑勤 30年目の取調室』(文藝春秋)、『新任警視』(新潮社)、『宿命 警察庁長官狙撃事件』(講談社)、『官邸ポリス 総理を支配する闇の集団』(講談社)、『告白――あるPKO隊員の死・23年目の真実』(講談社)なども紹介している。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?