読むべき本、見逃していない?

これからは東京都心北部の時代になる!

東京裏返し

 NHKの番組「ブラタモリ」人気のせいか、「街歩き」関連の本が目立つようになった。東京でも新宿、渋谷など都心西部に偏っていた街への関心は、最近、東京スカイツリーのある隅田川寄りの都心東部や湾岸へとシフトする動きがあった。本書『東京裏返し』(集英社新書)の主張は、なんとこれからの注目は「都心北部」だというのだ。「えー、北に何かあったかな?」「そもそも東京裏返しって、どういう意味?」と思いながら読んでみると、ディープな東京の原像がそこにあった。

著者は東京大学副学長をつとめた社会学者

 著者の吉見俊哉さんは社会学者。東京大学副学長などを歴任、現在は東京大学大学院情報学環教授。社会学、都市論などが専門で、著書に『都市のドラマトゥルギー』『五輪と戦後 上演としての東京オリンピック』などがある。

 本書は吉見さんの新たな都市論、東京論である。これまでに東京は三度「占領」されているという。一度目は徳川家康、二度目は明治政府、三度目はGHQによって。消された記憶をたどっていくと、そこに見え隠れするのは、日本近代化の父と称される渋沢栄一だと指摘する。

 本書で、「都心北部」とくくっているのは、上野、秋葉原、本郷、神保町、兜町、湯島、谷中、浅草、王子といったエリアだ。これらは古い歴史があるにもかかわらず、三度目の占領以降、つまり戦後になって周縁化されてきたという。しかし今、世界からも注目される都心地域へと成熟している。まさに中心へと「裏返し」されようとしているというのが吉見さんの主張である。

街歩きガイドとしても使える

 本書は詳細な地図と写真付きで実際に街歩きガイドとして使えることを意図している。ちょうど一週間の東京都心街歩きをする構成になっている。章タイトルと取り上げているエリアは以下の通り。

 はじめに モモと歩く東京――時間論としての街歩き
 第1日 都電荒川線に乗って東京を旅する 雑司ヶ谷、巣鴨、王子
 第2日 秋葉原-上野-浅草間に路面電車を復活させる 秋葉原、御徒町、上野、浅草、本所
 第3日 動物園を開放し、公園を夜のミュージアムパークに 上野
 第4日 都市にメリハリをつけながら、古い街並みを守る 谷中
 第5日 都心北部で大学街としての東京を再生させる 神保町、本郷
 第6日 武蔵野台地東端で世界の多様な宗教が連帯する お茶の水、湯島、御徒町
 第7日 未来都市東京を江戸にする 蔵前、柳橋、日本橋、大手町

川と路面電車

 事前調査に9カ月をかけ、実際に吉見さんが編集部スタッフとともに7日間、歩いた記録である。当然、そこには地形や歴史、人物について吉見さんの該博な知識がふんだんに盛り込まれている。

 印象に残っていることがいくつかある。まず、川の重要性にあちこちで言及していることだ。1日目では、石神井川が上野台地とぶつかったのが王子で、渋沢栄一は川の水を製紙工場に利用した。日本の製紙業の発祥の地は今、国立印刷局王子工場の敷地になっている。

 7日目は日本橋川沿いの兜町の第一国立銀行(現みずほ銀行)を歩き、渋沢が川筋に東京の未来を構想していた、と指摘している。

 水上タクシーからの眺めはSF的光景だと言い、「ジェットコースターで数百年のタイムトラベルをしたかのような川旅を終え、夢見心地のまま船を降りました」と書いている。

 もう一つは路面電車への注目だ。都電荒川線を早稲田と三ノ輪からそれぞれ延伸し、飯田橋と南千住の間を走る「外江戸線」を作り、さらに東京の真ん中を走る「内江戸線」のトラム路線を開設することを提案している。

 「内江戸線」構想は現実のプロジェクトとして動き出しているそうだ。「トーキョートラムタウン(TTT)構想」と名付けられたこの構想は、「東京文化資源区」構想のプロジェクトの目玉だという。東京都心北部にある文化資源の街々をトラムでつなぎ、過去と未来をつなぐ東京都心を実現すべく検討を重ねている。

「スローな時間」を取り戻す

 水上交通にしても路面電車にしても、そこには「スローな時間」が流れている。吉見さんは街歩きを時間論として提示しているのだ。そして、こう意図を書いている。

 「つまり本書は、読者が東京都心で、緩やかな速度(スローモビリティ)、長い歴史的時間の重層(三つの占領)、異なる次元の時間の共在(聖学俗)を、街歩きしながら体験できるように仕組まれている」

 都市を人間のためのものに取り返すには、スローダウンが必要だ、と力説する。

 コロナ禍による「ステイ・ホーム」の影響で、本書は刊行を数カ月延ばしたという。

 「感染症の拡大を越えて、人々が街との出会いを求めていく季節がやがて必ず来るはずだ」と結んでいる。

 BOOKウォッチでは、『みる・よむ・あるく 東京の歴史 6』(吉川弘文館)、『写真で愉しむ東京「水流」地形散歩』(集英社新書)、『ぐるっと湾岸 再発見』(花伝社)、『近代東京の地政学』(吉川弘文館)などを紹介済みだ。

  

 


  • 書名 東京裏返し
  • サブタイトル社会学的街歩きガイド
  • 監修・編集・著者名吉見俊哉 著
  • 出版社名集英社
  • 出版年月日2020年8月22日
  • 定価本体980円+税
  • 判型・ページ数新書判・348ページ
  • ISBN9784087211337

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