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元祖「カラー撮り鉄」ヒギンズ氏が愛した昭和30年代の日本

続・秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本

 本書『続・秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』(光文社新書)は、2018年に刊行された『秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』(同)の続編である。ふつうモノクロでしか見ることのできない昭和30年代の日本をカラーフィルムで撮影したのは、アメリカ人のJ・ウォーリー・ヒギンズ氏。前作で反響の大きかった鉄道ファンの声に応え、ローカル線や廃駅など、「鉄分」の高い内容になっている。

国鉄に勤めた米国人が撮影

 ヒギンズ氏は1927年米国ニュージャージー州生まれ。ミシガン大学で修士課程修了後、56年に初来日。58年以降、日本に在住。在日米軍や国鉄外国部に勤め、現在はJR東日本国際事業本部顧問。日本全国をくまなく巡り、貴重だった最上質のコダクロームで各地の風景を撮影した。いまだに色褪せない写真が魅力だ。2007年度日本写真協会賞特別賞を受賞。今もご健在で、写真の選択、原稿の執筆にあたられた。

 その写真の多くは鉄道写真だ。地方の写真も多い。それはヒギンズ氏が一般的な鉄道よりも簡易な軽便鉄道に関心があったからだ。祖国アメリカではすでに消えゆく運命にあったが、日本では北海道など各地に残っていた。

 本書は、「特集 オリンピックと東京」「特集 変わる産業・変わる社会」「東京編」「各地方編」の構成になっている。544枚を収録した。

 「特集 オリンピックと東京」には、建設中の首都高新宿線の高架下(赤坂見附)を走る都電、オリンピック前年の1963年に神奈川県鴨宮で公開された新幹線などが収められている。表紙にはこの新幹線の写真が使われている。線路内までおおぜいの人が立ち入っているのは、まだ開業前だったからだ。

 「特集 変わる産業・変わる社会」には、まだ鉱山が健在だった頃の鉱山鉄道の写真が収められている。石炭を運ぶ釧路臨港鉄道、ディーゼルと電気が混在した秋田県の小坂鉄道などだ。

 また、各地で木材の運搬に鉄道が利用されていた。木材の束を馬に引かせた荷台で草軽電鉄(群馬県)の駅まで運んでいる様子、森林鉄道と接続していた北恵那鉄道(岐阜県)の駅には木材が山と積まれていた。これら多くの鉄道は廃止された。まだ一次産業が華やかな時代、地方には多くの資源があり、それを運ぶ鉄道があり、旅客利用する人々がいた。

 「各地方編」には、廃止された各地の鉄道が数多く載っている。驚くべきことは、人が多いことだ。宮城県の仙北鉄道高石駅はホームが人で埋まっている。また小坂鉄道の客車はデッキまで人があふれている。モータリゼーションが本格的に進展するのは昭和40年代であり、鉄道が人々の足として利用されていた時代だ。

都市でも未舗装の道路

 地方ばかりではない。大都市の写真でも変化は感じられる。横浜、名古屋、京都、大阪、神戸では市電が走っていた。「東京編」では都電が数多く写っている。千代田区の半蔵門付近では国会議事堂をバックに都電が走っている。車は数えるほどだ。

 また都市でも未舗装の道路が多かった。世田谷区松原付近で犬を散歩させるヒギンズさんが写っているが、道路は未舗装だ。札幌でも中心部から外れると砂利道の中を市電が走っている。

カラー写真の持つ情報量と情感

 先日、光文社と東京大学の共同企画で『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(光文社新書、庭田杏珠、渡邉英徳 著)が発行され、重版されたことをBOOKウォッチでも報じた。戦前から戦後の貴重なモノクロ写真をAI技術で自動カラー化したのち、戦争体験者との直接の対話、SNSで寄せられたコメント、当時の資料などをもとに手作業で色彩を補正している。

 「1935年、沖縄の女学生」「1945年8月6日、呉からみたきのこ雲」「1946年8月、原爆投下一年後の広島のカップル」の3枚の写真を紹介したが、カラー写真の持つ情報量は圧倒的にモノクロ写真よりも多く、より情感に訴えることを感じた。

 本書を通して読んで思ったのも同じことだ。本書は職掌上、カラーフィルムを得やすい立場にあったヒギンズさんが撮影したものだから、何ら加工されていない。カラー写真から昭和30年代の日本、特に地方が想像以上に活発な社会であったことがうかがえる。

 秋田の小坂鉄道の山間の小さな駅で、農婦に手を引かれて歩いている男の子の表情まで伝わってくる。また、名鉄の岐阜市内線の電車が交差する道路には、自転車と人があふれ、喧騒が聞こえてきそうだ。

 本書の取材、翻訳、編集協力にあたった佐光紀子さんが、あとがきに「ウォーリーさんご自身の出版の最大の目的は、鉄道に限らず、当時の情報や様子をできるだけ正確に次世代に伝えること」と書いている。

 データの確認には、鉄道の専門家集団NPO法人名古屋レール・アーカイブスが協力したという。廃止された鉄道や古い車両が多いので、校閲にも十分配慮したということだろう。

 BOOKウォッチでは、まだ地方の私鉄や国鉄のローカル線が走っていた時代の記録として、『昭和四十一年日本一周最果て鉄道旅』(笠間書院)を紹介済みだ。

  


 


  • 書名 続・秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本
  • 監修・編集・著者名J・ウォーリー・ヒギンズ 著
  • 出版社名光文社
  • 出版年月日2019年12月30日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数新書判・510ページ
  • ISBN9784334044503
 

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