アメリカの俳優には、知性としっかりとした人生観を持っている人がいることをあらためて確認した。俳優で監督もつとめるイーサン・ホークさんが書いた本書『騎士の掟』(パンローリング)は、人生がもたらす意味と美しさを描いた珠玉の短編集だ。
ホークさんは、これまでに4度アカデミー賞にノミネートされている(助演男優賞2回・脚色賞2回)。映画『いまを生きる』などに出演。近年では是枝裕和監督の『真実』にも出ている。また、小説『痛いほどきみが好きなのに』『いま、この瞬間も愛してる』(いずれもソニーマガジンズ)の著者でもある。4人の子どもたちと、本書のイラストレーターで妻のライアン・ホークさんとともに、ニューヨークのブルックリンに在住している。
本書は、1970年代初頭、オハイオ州のホークさんの親族の家で発見された古い手紙がもとになっているという。もともと英国の古いケルノウ語で書かれていたものだが、ミズーリ大学セントルイス校のリンダ・ショー博士による逐語訳を経て、ホークさんの手により復元・編集され、現代の言葉でよみがえった。また、各項目に添えられた鳥の挿絵も、本文とともに発見されたものだが、妻のライアンさんの手により、復元・アレンジが施され収録されている。
どうしてそんなところにあったのか、果たして本物なのかについては、まだ定かではないところがたくさんあるが、ホークさんは、「わが一族の主張としては、コーンウォールの貴族ホーク家、特に勲士(サー)トマス・レミュエル・ホークに直接ゆかりあるものだと考えたい」としている。
時は15世紀、英国コーンウォールの勲士トマス・レミュエル・ホークは、スローターブリッジの戦いで斃れた323人のうちのひとりだった。戦いの前夜、もう自分が家に戻ることがないと察した彼は、祖父から受け継いだ「騎士の掟」を4人の子どもたちに伝えるべく、遠く離れた戦地で手紙をしたためる。その「掟」は、孤高、謙虚、正義をはじめとする20の項目で構成され、トマスにとって特にかけがえのなかった物語や出来事で綴られていく――遺された子どもたちの人生の道標となることを願って――そして空が白みはじめ朝を迎える......。
その20項目とは、こうだ。
「孤高、謙虚、感謝、誇り、協調、友情、赦し、誠実、勇気、寛容、忍耐、正義、気前、鍛錬、専心、言辞、信心、平等、愛情、辞世」
どの項目も勲士トマスが、祖父から聞いた話や自らの体験を短い文章に記したものになっている。たとえば、「友情」について。勲士リチャードのエピソードを紹介している。
「友が傷ついたり悲しんだりしているときに寄り添うのはある意味ではたやすいことである。ただし、とんでもない幸運が友に舞い込んだのに自分はそうでないとき、それでも真心から寄り添うというのははるかに困難なことなのだ」
そうした箴言の後に、王から勲章をたまわった時、自分をいちばんに肩へ担ぎあげたのはリチャードだった、その赤ら顔は本物の喜びに輝いていた、と書いている。
ホークさんは、勲士トマスの思いを伝えようと頑張ったものの、自分ではうまく言い切れないところでは、あまたの騎士の文から語句の表現・言い回しを借用したという。その名前を巻末に掲げている。
訳者の大久保ゆうさんは、本書はアーサー王物語などの中世騎士道物語をモデルにしつつ、子どもたちに道徳を教えるために騎士道を題材にした作品と解説している。子どもが読んで楽しめるファンタジーに仕上がっているが、大人が読んでも人生訓として学ぶべきところが多い。
ホークさんは、「なかなか話題にしにくい道徳的なことを子どもたちと話すためのよいツールになっている」とコメントしている。
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