「騎士団」というイメージは、いまや映画や小説、ゲームをつうじて、なんとなく共有されているが、その実態について知る人は少ないだろう。
本書『テンプル騎士団』(集英社新書)の著者で作家の佐藤賢一さんは、映画「スター・ウォーズ」に登場する「ジェダイ騎士団」について「テンプル騎士団を下敷きにしたのではないか」と推理する。
イスラム教徒からキリスト教の聖地エルサレムを奪還しようという十字軍を契機に、12世紀はじめに誕生したのがテンプル騎士団だ。映画の「ジェダイ騎士団」は、銀河を司るエネルギー「フォース」とライトセーバーという剣を用いて戦う、銀河系の自由と正義の守護者だ。似たようなニュアンスを感じる。
さて実在のテンプル騎士団はその後、軍事力、政治力、経済力すべてを持ち合わせた超国家組織に変貌を遂げる。彼らは後世に影響を与えた、さまざまな制度をつくった。管区・支部といった巨大ネットワークを張り巡らせる組織作り、指揮命令系統の明確な自前の常備軍、銀行業の始まりといわれる国際的な財務管理システムなどである。佐藤さんは「国際金融資本がアメリカ軍を持っていたようなもの」と形容しているが、その巨大権力は、あっけなく滅ぼされてしまう。なにがあったのか?
1307年10月13日の金曜日、フランス王フィリップ4世は、フランス各地でテンプル騎士団を一斉に拘束した。男色行為や異端が口実とされ、拷問によってパリで逮捕された138人のうち36人が痛みに堪えかねて死んだという。
騎士にして聖職者というのがテンプル騎士団だったが、組織が発達するうちに「カネ」を追求するようになり、巨額な融資をするテンプル騎士団はフランス王の最大の債権者でもあったのだ。王は騎士らを逮捕するとともにテンプル騎士団の財産を差し押さえた。
フランスのテンプル騎士団は解散したが、ほかのヨーロッパ各地ではかたちを変えて生き残った。「コロンブスは義父がキリスト騎士団の総長を務めており、その関係でキリスト騎士団所蔵の海図や航海日誌を参照できたといわれている」というエピソードを紹介している。テンプル騎士団は滅んでいないという伝説を積極的に利用したのが、近代におけるフリーメイソンだそうだ。
『小説フランス革命』などフランスを舞台にした小説を多く書いている佐藤さんだけに、参考文献には多くのフランスの研究書が挙げられている。フランス王の悪だくみも小説のような面白さで描かれている。フィリップ4世の3人の息子たちもフランス王に即位しては次々に亡くなり、遂にカペー朝は断絶する。「テンプル騎士団の呪いなのだと騒がれても、それは仕方ない話である」と結んでいる。
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