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安部龍太郎が解き明かした「平城遷都」の謎

平城京

 「平城京」は8世紀、奈良時代に築かれた古代都市。現在の奈良市~大和郡山にかけての地域にあったとされる。本書『平城京』(KADOKAWA)は、歴史小説家として知られる直木賞作家、安部龍太郎さんが、その都造営の謎に挑んだ古代史ロマンの長編小説。

 遷都という一大国家プロジェクトと、それにまつわる人間模様を、当時の東アジアの情勢や、前世紀に起きた、古代日本最大の反乱といわれる「壬申の乱」から続く朝廷内の対立を背景に描くミステリー仕立て。スケール感があり読み進むうちに想像力をかきたてられ、物語に引き込まれていく。

「白村江の戦い」敗戦の影響

 平城京は、2010年に「平城遷都1300年記念祭」が行われ、大極殿が復元されるなどして注目が集まった。当時も話題になったのが「遷都」をめぐる不可解な経緯だ。藤原京に落ち着いてから16年しかたっておらず、そこから真北に30キロほどしか離れていない場所に、都を新造している。安部さんがこの作品に取り組んだのは、このナゾ解きも動機の一つのようだ。

 物語は遣唐使の船長として活躍していた主人公・阿倍船人(ふなびと)のところに、平城京造営の仕事の話が、兄・宿奈麻呂(すくなまろ)から舞い込むところからはじまる。宿奈麻呂は平城京の造営司を務める朝廷の実力者だ。

 宿奈麻呂、船人兄弟の父、阿倍比羅夫は、日本が朝鮮半島に出兵して百済を助け唐・新羅連合軍と戦い敗れた「白村江の戦い」(663年)の水軍の将。宿奈麻呂の訪問を受けたときの船人は、罰により難波の草香津に逼塞する生活を送っていた。

 新都造営を担う宿奈麻呂は、弟に現場の指揮をとる役目を依頼するためやってきたもの。遷都までの期間はわずか3年。船人は逡巡したあげく、白村江での敗戦で責任を問われて下降した家運の再興を考え、兄の依頼を受けいれ現場指揮者を引き受ける。

 ただでさえも急がねばならない新都建設と遷都作業なのに、船人が一大計画に携わり始めようとするや黒い影が立ちはだかるようになる。つい前まで逼塞した身だった船人、中国で隋に代わり覇権を握りさらに勢力の拡大を目論む唐の思惑、百済、新羅など朝鮮半島とのかかわり...。さまざまなことが絡みあって物語は進む。

「壬申の乱」に端発する政争の延長戦か

 いよいよ始まった平城京建設。用地の確保や立ち退き交渉、作業小屋の建設、整地や川の付け替えと取り組む業務は膨大だ。一方で妨害も激しさを増す。この遷都は、天皇の詔(みことのり)で進められている国家プロジェクト。妨害の背景を探るうち、その闇の深さも徐々に明らかになる。その根にあったのは、40年ほど前に起きた「壬申の乱」。天武、天智両天皇派の確執がいまだ及んでいるらしい。その対立は、唐との関係などをめぐっての外交・安保をめぐる不一致でもあった。

 独自の視点と解釈で歴史を切り取り、その時代の人々を生き生きと描き出すのが安部作品の特徴。この作品でも、古代史上の謎とされる「平城遷都」に切り込み、船人や、船人を助ける蔵道、海丸、円法など個性的な人物たちを配して飽きさせない。また粟田真人、藤原不比等、吉備真備など、この時代に活躍したとされる実在の人物たちも登場し、古代史ファンの心を躍らせるのにも十分だろう。のちに遣唐使として大陸に渡り、帰国がかなわなかった阿倍仲麻呂も才気あふれる少年としてキャスティング。胸がチクリと痛むという「おまけ」もある。

 東アジアの中の日本という視点が盛り込まれ壮大な歴史ロマンであると同時に一大プロジェクト遂行のドキュメンタリーを同時代でモニターする味わいも。だが、遷都を阻む黒幕を探るミステリー、主人公・船人による家の再興物語というエンターテインメントの芯は最後までしっかり据えられている。意外な黒幕が明かされる最後まで目が離せない。

  • 書名 平城京
  • 監修・編集・著者名安部 龍太郎 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2018年5月31日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数四六判・416ページ
  • ISBN9784041058497

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