2007年『桃山ビート・トライブ』で第20回小説すばる新人賞を受賞し、デビューした天野純希さんは、歴史時代小説のニューウェーブとして斬新な作品を発表してきた。その新作が本書『雑賀のいくさ姫』(講談社)である。
「雑賀(さいか)」とは、紀伊国北西部(現在の和歌山市周辺)に実在した地侍集団。鉄砲伝来以降は、数千の鉄砲で武装した傭兵集団として知られる。船の扱いにも長け、海運や貿易も営んだ。
この一種の「海賊」を著者はうまく小説に取り込んだ。雑賀水軍の「いくさ姫」と呼ばれる鶴は、操船と射撃の名手で、男まさりの19歳の少女。イスパニアのイダルゴ(騎士)の家系に生まれ、ジパングに憧れてやってきたものの難破し、囚われの身になっていたジョアンを救い、家来にする。
ジョアンが乗ってきた大型のカラベル船を修復した「戦姫(せんき)丸」で、商いのため南洋に向かおうとするが、瀬戸内で村上水軍に捕まってしまう。さらに毛利、大友、島津と戦国の西国大名オールスター水軍が日本を狙う大海賊と雌雄を決する海戦に巻き込まれていく。
物語はジョアンの眼から語られるので、戦国を扱った時代小説につきものの重苦しさから解放されている。さらに世界史的な視点から当時の東アジア、中国(当時は明)の情勢が示され、物語に広がりを生んでいる。
本書でも中国や朝鮮で倭寇と呼ばれた海賊が登場するが、後期において実は中国人が多かったという学説を踏まえ、魅力的なキャラクターを造形している。
国を越えて、彼らが東アジアを往来していた史実を小説的想像力で飛翔させた著者の力量に感心した。海の戦闘場面の迫力もすさまじい。
海賊と言えば、2013年に和田竜さんの長編小説『村上海賊の娘』がブレイクした。村上水軍のリーダー村上武吉の娘、景の波乱万丈の戦いを描き、漫画化もされている。「海賊の娘」というコンセプトは、なかなかに魅力的である。
本欄では『戦国江戸湾の海賊――北条水軍VS里見水軍』も紹介している。「海賊」という名の水軍は、日本では平安時代以降、各地にあった土着の権力であったことが分かる。
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