「教養学部」と聞いて、中高年の人は何を思い浮かべるだろうか。今もまだ「大学1、2年が在籍しているところでしょ」と思い込んでいる人が少なくないのではないだろうか。本書『教養学部』(ぺりかん社)は、その教養学部についての最新状況をわかりやすく伝えている。ずいぶん様変わりしているのだ。本書は「中高生のための学部選びガイド」という受験に備えたシリーズの一冊。
かつて、大学の1、2年生は「教養課程の学生」と呼ばれていた。語学や「概論」を学んで、3年生になってから専門の学部に分化する。長くそのようなシステムが続いた。
独立した専門的な「教養学部」というと、東大教養学部が思い浮かぶぐらい。そのほかではせいぜい国際基督教大(ICU)など。旧世代の人たちの「教養学部」についての理解はおおむね、この辺りでストップしてしまうのではないだろうか。戦後長く、「教養学部」という看板を掲げている大学は極めて少なかった。
ところが近年、かなり状況が変わっている。国公立では、秋田に国際教養大というのができた。2004年のことだ。評価と人気が急速に高まり、今や難関大学になっているということはしばしば報じられている。私立大では、やはり04年に早稲田大に国際教養学部ができた。こちらも、留学が必須だとかで話題になってきた。
今や「教養学部」は「法学部」「経済学部」などと同格の、一つの学部として認知されつつあるのだ。「教養学部」の学問は非常に自由度が高いことが魅力で、文学と数学、社会学と物理学など、まったく分野の違う学問を組み合わせて学ぶことができ、いつか応用できる教養の引き出しを増やすことが可能なことが大きな特徴だという。
本書はそうした「教養学部」をめぐる新しい潮流を軸に、なぜ増えてきているのか、何を学ぶのか、卒業後はどういう進路があるのかなどを解説している。
本書でしばしば登場するのは「リベラルアーツ」という言葉だ。日本語ではぴったりした訳がない。一応「教養」と同義とされている。本書では、「人が自由になり、いろいろな可能性に向かうための知識や、生きるための力をつける学問を意味している」「もともとはギリシャ・ローマ時代の学問で、古い歴史をもっている」と説明されている。
その根本は今の時代も変わらない。「幅広い領域で知識を深めて、課題に対し多角的な視野で分析、解決案を探る力を育む学問といえるだろう」と補足されている。
リベラルアーツに関わる大学は欧米では非常に多い。アメリカには500校以上あるという。日本でも戦前の旧制高校では「教養」が重視されていた。
しかしながら戦後は実学重視。上述のように近年、改めて脚光が当たるようになっている。
一因として挙げられているのが、アップルの創始者だったスティーブ・ジョブズの「リベラルアーツ」へのこだわりだ。「アップルというのはテクノロジーの会社ではなく、テクノロジーとリベラルアーツの交差点にある」という彼の言葉は、しばしば日本でも引用されている。ジョブズは大学でリベラルアーツを学んでMacを生み出したという。社会を大きく変えたテクノロジーにリベラルアーツが大いに貢献した、というのだ。
何の役に立つのかわからない、とされていた掴みどころのない学問、リベラルアーツ。それがジョブズによって再評価され、日本でも息を吹き返した格好だ。
本書では埼玉大、早稲田大、東海大、国際基督教大、秋田の国際教養大などの教員や在校生、卒業生らの話が多数登場する。
このほか、実は似たような名前や性格の学部を持つ大学もかなりある。国公立では京都大総合人間学部、広島大総合科学部、九州大共創学部、徳島大総合科学部など。現代教養学部は東京女子大、聖心女子大など。早稲田大と同じく国際教養学部という名では千葉大や上智大、創価大など。グローバル教養学部は立命館大、法政大などにある。東工大にはリベラルアーツ研究教育院、玉川大にはリベラルアーツ学部、桜美林大にはリベラルアーツ学群がある。
こうして改めて並べてみると百花繚乱。「教養学部系」の活力を感じざるを得ない。旧世代の評者としては、それぞれの大学の「教養学部」が成果を上げ、そこから日本発の「スティーブ・ジョブズ」が生まれることを期待するばかりだ。
本書の著者の木村由香里さんはフリーライター・編集者。出版社勤務を経て独立。主に旅行誌や書籍、企業の広報誌をメーンに編集・執筆するほか、翻訳書も多い。共著書に『ライターになるには』(ぺりかん社)などがある。
BOOKウォッチでは関連で『大学はもう死んでいる? トップユニバーシティーからの問題提起』(集英社新書)、『東大を出たあの子は幸せになったのか』(大和書房)、『海外で研究者になる――就活と仕事事情』(中公新書)、『大学改革の迷走』 (ちくま新書)、『大学教授が、「研究だけ」していると思ったら、大間違いだ!』(イースト・プレス)、『「地方国立大学」の時代』 (中公新書ラクレ)なども紹介している。
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