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職人さん御用達のワークマンに女性客が増えたワケ

ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか

 作業服などを売っているワークマンという会社の名前を聞いたことがあるだろうか? 職人さん御用達の店が、最近アウトドアに関心のある女性客でにぎわっているという。本書『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか』(日経BP 発行、日経BPマーケティング 発売)は、その秘密を探った本である。

4000億円の空白市場

 1980年、群馬県伊勢崎市に「職人の店・ワークマン」として開業し、フランチャイズで店舗を広げてきた会社だ。2012年に土屋嘉雄会長(当時)の甥、土屋哲雄氏(現・専務)が入社、常務情報システム部・ロジスティクス担当になってからの快進撃にスポットを当てている。

 街着としても使えるカジュアルウェアやレインスーツを集めた新業態に進出することにした。競争の激しいアパレル業界だが、機能性が高く、普及価格の商品は、4000億円の空白市場であることが分かった。

 ここに狙いをつけ、18年「ワークマンプラス」として出店した第1号店は、1億2000万円の年間売り上げ目標を3か月で達成した。商品は既存のワークマンと全く同じだったが、店の外観や売り場を変える「空間戦略」が成功した。

「変身店舗」も登場

 20年3月には、2分で看板や店内がワークマンからワークマンプラスに変身する店舗も開店させた。ワークマンプラスはワークマンが扱う膨大な商品の中からカジュアルウェアだけを切り出して売る店だ。アウトドアショップのような外観に女性客が集まった。見せ方を変えるだけで売れたのだ。両者が同じ商品を扱っていることを証明するために作ったのが、その「変身店舗」だった。

 東京大学経済学部を卒業後、三井物産でスタートアップや新規事業を次々と起こし、定年まで全うした土屋哲雄氏の経営方針がユニークだ。

納品はすべてメーカー任せ

 たとえば、「善意型サプライチェーン」。どれだけ納品するかの判断をメーカーにすべて委ねている。メーカーが生産した分は、ワークマンがすべて無条件で買い取り、商品が倉庫に届いた時点で全量分の代金をメーカーに支払い、ワークマンに所有権が移る。社内のデータをすべてメーカーに開示しているから出来る仕組みだ。返品リスクがないため、メーカーも安定した売り上げを確保できる。ワークマン側も欠品が減り、在庫回転率も上がったという。

 このほかにも「原価率65%」への執念やまず売価を決めるところからのものづくりなど、ワークマンの経営の要点がいろいろ書かれている。

「とにかく競争したくない会社」

 その中でも面白いのが、「とにかく競争したくない会社」ということだ。土屋氏はワークマンプラスを出店したときから「ユニクロアウトドア」や「ユニクロスポーツ」が現れたら撤退すると決めていたという。

 ワークマンレディース、ワークマンレインという二の矢、三の矢があったから出来ることだった。

 フランチャイズがほとんどだが、出店場所を本部が決める。コンビニのように店舗同士を競合させないのが大方針だ。

コロナ後は「等身大の消費」に

 新型コロナ対策では、職人などの顧客のためにほとんどの店を開き続けたが、本社では「不要不急の仕事をしない勇気を持とう」というメッセージを社員に発した。データ経営を徹底しているため通信容量がひっ迫した。そこで社員番号を偶数と奇数に分け、接続できる時間を分けて対応したという。

 土屋氏はコロナ後、「ハレの消費」から「等身大の消費」に移ると予測している。

 著者の酒井大輔さんは日経クロストレンド記者。本書には社長インタビューが載っていない。いま専務になった土屋氏を主人公にした短篇小説の集合体のようなつくりになっているのも異色だ。

 評者も前から気になっていた近くのワークマンに行ってみようと思った。安くて高機能の商品がいっぱいあることを本書で知った。

 単なる会社の宣伝本と思う人は読まなくて結構だ。ユニクロやニトリを超えるような会社になるかもしれないワークマンの戦略は、多くの企業にとっても「目からウロコ」の内容に満ちている。

 BOOKウォッチでは、関連で『アパレル興亡』(岩波書店)、『百貨店・デパート興亡史』(イースト新書)、『おしゃれ嫌い――私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』(幻冬舎新書)などを紹介している。

  


 
  • 書名 ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか
  • 監修・編集・著者名酒井大輔 著
  • 出版社名日経BP 発行、日経BPマーケティング 発売
  • 出版年月日2020年6月29日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・287ページ
  • ISBN9784296106721
 

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