いまやアマゾンなしには生活できないと考えている人が増えているという。気がつけばほとんど毎日アマゾンで何かを購入、映画や音楽鑑賞、読書するのもアマゾン経由という具合だ。米国でインターネット書店としてスタートし日本には書籍通販ビジネスで2000年に上陸したアマゾン。「Amazon.co.jp」開設以来十数年でモノやサービスからあらゆるものを扱うようになり、国内最大規模のECサイトに成長、なお生活企業としての拡大をめざしている。
『アマゾンが描く2022年の世界 すべての業界を震撼させる「ベゾスの大戦略」』(田中道昭著、PHP研究所)が描くところでは、これから4年後、アマゾンは社会インフラともいえる存在になっており、衣食住どころか暮らしまるごと、アマゾンだのみになっているかもしれないという。
クラウドコンピューティングから人工知能(AI)や宇宙事業にも手を広げ、すでに、国家の経済・金融政策にとても無視できなくなっているというアマゾン。米国ではあらゆる分野、階層に影響が及ぶようになっており、アマゾンに顧客と利益を奪われることを意味する「アマゾンされる」という言葉が生まれるほど。
本書によると「アマゾン効果」は、元々はアマゾンがECや小売業界に影響を与えていることを意味していたものが、最近ではさまざまな産業や国の金融・経済政策にまで影響を及ぼしていることを意味するようになっているという。
著者は立教大学ビジネススクールの教授を務めるかたわら、上場企業の社外取締役、経営コンサルティングのこなしているマーケティングの専門家。アマゾンの影響力が多業種に広がっている近年は、対アマゾン戦略について意見を求められる機会が増えており、同社共同創設者であり経営トップのジェフ・ベゾス氏の音声資料や文献のリサーチなどに努めてきたという。
アマゾンをめぐって最近注目を集めたことは、宅配大手、ヤマト運輸との配送料金をめぐる交渉だろう。両社は4割の値上げで合意に達したとされる。このことについて著者は、アマゾンは顧客第一主義の徹底からヤマトからの値上げ要請を受け入れる判断をせざるをえなかったとし、ヤマトへの依存を危機管理上の脅威と感じ自社による宅配ネットワーク構築に本気で取り組むと予想する。
著者は「2022年11月の近未来予想図」で、アマゾンの宅配をこうなると予想している。
2019年にはアマゾンは独自の宅配網を新興宅配業者とともに完全配備。直営の無人コンビニ店舗網を含め全国3000か所に宅配ロッカーを設置している。経済特区内ではすでにドローン配達を開始。千葉市内の経済特区内にある、フリーランスの32歳男性の実家には、アマゾンが運営する飛行船型空中倉庫を経由して毎週、庭に設置されたドローン専用受け取りスペースにアマゾン・プライムから食料品が届けられている。
ほかにも、規制緩和の方向しだいで、クラウドソーシングやシェアリングの仕組みを利用した宅配事業にもアマゾン自らが乗り込んでくることも予想されるという。クラウドソーシングは、特定多数の人に仕事を委託したり、一つの仕事を分業することで、著者は「仕事のセグメンテーション(分割、区分)」を呼ぶ。テクノロージーの進化でさまざまなモノやコトでセグメンテーションが可能になり、アマゾンは「マーケットのセグメンテーション」「時間のセグメンテーション」「仕事のセグメンテーション」などをファクターに戦略を展開するとみられる。
アマゾンは通販企業とみられているが、実はテクノロジー企業としての色彩を強めている。その理由はAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)の存在が大きくなっているため。そして、それがアマゾンの、業界をまたいでの競争力の強さの原動力であり、収益でもドル箱事業に成長しているという。ネット通販のために投資を惜しまず開発したクラウドコンピューティングの仕組みを社外に開放しビジネス化したもので、世界のクラウド市場で3割のシェアを持つ。AWS事業は全社売上の9%、営業利益では74%を占める。また、アマゾン全体の利益率は3%にとどまるが、AWS事業のそれは25%にもなるという。そしてこのAWS事業の好調さが拡大や多角化を可能にする支えだ。
さまざまの企業を買収して傘下におさめているアマゾンだが米国で17年8月に、オーガニックフードなどの品揃えで成長した食料品スーパーチェーン、ホールフーズを買収、その効果で生鮮食品のネット販売事業アマゾンフレッシュの売上を大幅に伸ばした。一方、本書によれば米国では、アマゾンによる買収で、アマゾンが採用しているダイナミックプライシング(価格は需要に基づいて変動するように最適化を求める)の対象を拡大し、モノの値段が下がるという期待と懸念が交錯しているという。著者は「とくにP&GやJ&Jといった消費財メーカー価格低下への懸念とアマゾンによるPB商品拡大への懸念とが相俟って、大きな影響を受けると予想されている。日本でも今後、花王、ライオン、ユニチャーム、サンスターといったメーカーが大きな影響を受けるのではないかと考えられる」と述べている。
アマゾンは通販企業の装いでありながらコアの事業はAWSというように、そのアイデンティティーはさまざまで、アマゾン効果の影響を受ける産業もさまざまになっている。産業へのアマゾン効果が強まってきた12年には米投資会社が「アマゾン恐怖銘柄指数(Death By Amazon=デス・バイ・アマゾン)」を設定。アマゾンの収益拡大や新規事業参入、買収などの影響を受け業績悪化が見込まれる小売り関連など54社で構成される。同じ投資会社は17年に、それとは正反対の指標である「"Amazon Survivors"Index」を公表。アマゾン効果をの影響を受けにくい上場企業群が対象で著者は「アマゾン対抗銘柄指標」と呼ぶ。ジュエリーブランドのティファニーなどが含まれる。
本書に掲げられた「2022年の世界」では、アマゾンが自前で宅配システムを整備していることや直営コンビニチェーン展開のほか、AIアシスタント「アレクサ」を搭載したスマートスピーカー「アマゾンエコー」が、アシスタントからプラットホームとして定着することや、アマゾンがアパレルのSPA(製造小売業)にも進出し、AIによるコーディネートのサービスなどを一体化させ、ユニクロの強力なライバルになることなどを予想している。また、日本ではまだあまりなじみのない中国ネット企業アリババが、さまざまな事業領域においてすでに質量ともにアマゾンを凌駕し始めており、両者の争いが今後激化すると著者はみている。
本書が予想しているのは2022年のこと。わずか4年後だ。そのときにそうなっていなくても、そこからそう遠くない将来には実現しているのではないかと、われわれが漠然と思うことも少なくない。アマゾンの利用の頻度や仕方は人によってそれぞれだろうが、アマゾンの浸透度を考えると、利用のレベルにかかわらず、将来にわたっての賢い使い方の参考にもなる。
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