2018年1月4日の朝日新聞は大々的に、ネットゲームについての記事を1、2面で掲載していた。見出しはこんな具合だ。「ネットゲーム依存、疾病指定へ WHO定義、各国で対策」「『ネトゲ廃人』、世界が本腰 韓国、86時間没頭し死亡例 規制次々、業界から反発」。
いったい何事が起きたのかと思うほどの大きな扱いだった。新年の一面トップを狙ったのかもしれない。それが4日朝刊に回されたということか。とうぜん本書『ネトゲ廃人』(新潮文庫)について言及されているかと思ったが、残念ながらなかった。
というわけで、朝日新聞に代わって本書を紹介したいと思う。著者のノンフィクションライター、芦崎治さんが本書を単行本として出版したのは2009年のことだ。反響を呼んでその後、12年には新潮文庫に入った。書名は、現代社会におけるネットゲーム中毒者を指し示す造語としてすっかり定着した感がある。
「現実を捨て、虚構の人生に日夜のめり込む人たち」。それがネットゲームにとりつかれたゲーマー、ネトゲ廃人たちの尋常ならざる姿だ。エンドレスで長時間遊ぶ。その結果、時間とカネの浪費が激しい。繁華街のゲーセンで、ちょっと射撃やカーレースゲームをして、いっときの気分転換を楽しむというのとは異なる世界だ。
彼らはなぜ、そこまで夢中になり没頭するのか。学業や仕事、家庭はどうなっているのか。何がそんなに魅力なのか。芦崎さんはネット世界で増殖する彼らの実像を求めて取材を進める。「ゲームで愛し合いリアルで同棲」「人間不信のトラウマをネトゲで乗り越えた」という人もおれば、「廃人になった」「家庭崩壊」など社会人失格に追い込まれた人たちもいた。
1954年生まれの芦崎さんは、ひょんなことで、ゲームの世界と接点があった。東京で浪人生活を送っていたころ、友人のアパートの二階に、漫画を描いている早稲田大の学生がいた。3人で焼き肉をつつきながら誕生会をやったこともあった。その漫画家の卵が、のちに「ドラゴンクエストシリーズ」の生みの親となる堀井雄二さんだった。
芦崎さんはのちに週刊誌「AERA」の看板企画「現代の肖像」で堀井さんを描いた。さらにナムコの社長など、ゲーム業界の大物を次々と「肖像」でとり上げ、他の雑誌からもゲーム業界の企画で声がかかるようになる。
こうしてゲームを「作るが側」の人脈を押さえたうえで、ゲームで「遊ぶ側」に踏み込んだのが本書だ。
芦崎さんは早々とネットゲームの本場、韓国取材もしている。すでに韓国や中国ではゲームに熱中する余り「過労死」したり、自殺したりする人が出ていた。朝日新聞の記事では「韓国、86時間没頭し死亡例」などが見出しになっているが、それは本書でとっくに紹介されている。やはり朝日の記事では、ひとこと本書に言及があってしかるべきだっただろう。
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