ユニクロ以前・以後でファッションの常識は大きく変わった――。ユニクロが「見た目競争」を終わらせた――。
本書『おしゃれ嫌い――私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』(幻冬舎新書)は、ユニクロのコーディネートやファーストリテイリングのビジネス戦略を解説するものではない。いまや日本の「国民服」となったユニクロのメッセージと消費の変化を社会学者が読み解く。
著者の米澤泉さんは、1970年京都生まれ。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授。専門は女子学(ファッション文化論、化粧文化論など)。
本を執筆するほどだから余程のユニクロ好きかと思いきや、ユニクロに対する米澤さんのスタンスはずいぶん冷静だ。「はじめに」で「決して『ユニクロに学ぶ』わけではない。言うまでもなく、ユニクロを礼賛するわけではない」と断り、あくまで客観的な立場から「なぜ私たちがユニクロを着るようになったのかを問う」としている。
本書の目的は、ユニクロの変化の過程を追い、ユニクロを通して現代における「服を着ること」「消費の変化」「欲望のあり方」を明らかにすること。ユニクロを追うことは「(平成の)30年の間に服を着ることの意味がどのように変わったのかを考えること」になり、「おしゃれとの付き合い方の変化を浮き彫りにすること」であるという。
「第1章 なぜ、ユニクロが「国民服」になったのか?」は、1984年に広島市に誕生した「ユニーク・クロージング・ウェアハウス」が世界の「ユニクロ」になるまでの軌跡をたどる。
「第2章 ユニクロは『服』ではなく、『くらし』を売っている」「第3章 みんな、おしゃれよりもくらしが好き」「第4章 ユニクロがおしゃれの勝負を終わらせた」は、ユニクロがなぜ「正解」の服になり、私たちはなぜユニクロを着るようになったのかを見る。
「第5章 ユニクロ隆盛時代の欲望のかたち」は、現在の消費のあり方、人々の欲望の在処を明らかにする。
本書は情報量が多く、内容も濃い。ここではサブタイトルの「私たちがユニクロを選ぶ本当の理由」にしぼってお伝えしよう。
■服ではなく「くらし」を売っているから
2013年、ユニクロは「ライフウェア」という新しいカテゴリーの服を提唱し始めた。人々の生活をよくする究極の服。より望ましいライフスタイル、新たな価値観を提案する正しい服。ユニクロの服を買うことで、私たちは「ていねいなくらし」というライフスタイルを手に入れている。
■「くらし」の時代が到来したから
ファストファッションの浸透により、安易に手に入る流行服が蔓延し、服への関心が低下した。さらに2011年の東日本大震災により、ファッションよりも日々の「くらし」をていねいに生きることが重要視されるようになった。おしゃれはほどほどで「ていねいなくらし」をしたいという時代が到来した。
■おしゃれで勝負しなくてよくなったから
おしゃれが自己表現だった時代は、ブランド品を身にまとい勝ち負けを競わなければならなかった。しかし現在は、ユニクロがあれば十分。ユニクロがおしゃれで勝負する時代を終わらせた。
なんとなくユニクロが好きで買っていたが、こうして理論的に説かれると、私たちがユニクロを選ぶ背景にはさまざまな要因が積み重なっていることに気づかされる。
「DC(デザイナーズ&キャラクター)ブランドで育ち、バブル期のインポートブランドの洗礼を受けて生きてきた私にとって、ユニクロは最も遠い存在のはずだった」という米澤さん。しかし、気づけばユニクロは世の中を席巻し、ユニクロを敬遠していたファッション誌までもがユニクロの虜になっていた。
「私の信念が揺らぎ始めた。......ずっと横目で見てきたユニクロを正面から取り上げることにした。この30年間ですっかり変化したユニクロを通して、平成のファッション史が描けると思った」
本書を読み、平成の30年間に起きた日本人のファッション観、人生観の変化を知った。また、服は単にファッションで完結するものではなく、人々の生き方を映し出すものであるという発見があった。
ユニクロについて書かれた本は『「ユニクロは3枚重ねるとおしゃれ」の法則』(講談社)などもあるが、ユニクロを軸に1980年代以降のファッションを多面的に考察している本書は、ファッション史に興味のある人にオススメ。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?