NHKのバラエティ番組「日本人のおなまえっ!」に出演している森岡浩さんの解説には、いつも感心する。変わった名字の由来やどの地方に多いのかをたちどころに説明してくれる。本書『47都道府県 名字の秘密がわかる事典』(宝島社新書)は、森岡さんが監修した名字についての本だ。
森岡さんの著書『47都道府県・名字百科』(丸善出版)、『県別 名字ランキング事典』(東京堂出版)、『日本の名字』(エイ出版社)、『ルーツがわかる名字の事典』(大月書店)などを参考に、編集プロダクションが編集した。
第1部は、名字の起源についての解説と「日本の名字 TOP100」の後、47都道府県ごとに40位までのランキングとその解説、ゆかりのある武将と有名人の名字、珍名字・難読名字という構成になっている。
ちなみに全国のトップ20は以下の通り。
1佐藤 2鈴木 3高橋 4田中 5渡辺 6伊藤 7山本 8中村 9小林 10加藤 11吉田 12山田 13佐々木 14山口 15斎藤 16松本 17井上 18木村 19林 20清水
全国どこでもこうした傾向かというと、東日本と西日本でまったく異なっている。
東京、神奈川では鈴木、佐藤がツートップなのに対し、大阪、京都、兵庫では田中、山本がツートップである。
東京は全国から人が集まったので全国ランキングとほぼ同じだが、東海から関東にかけて多い「鈴木」が、東北に集中する「佐藤」より多いのが特徴だ。「鈴木」は平安時代、熊野(和歌山県、三重県)の方言で「積んだ稲の穂」を意味するスズキから称したと伝えられているという。
ぱらぱら見ていると、都道府県ごとに特徴のある名字があることがわかる。青森では「工藤」が1位だが、これは青森だけだ。同様のことは山梨の「渡辺」、岐阜の「加藤」、香川の「大西」、宮崎の「黒木」、沖縄の「比嘉」にもあてはまる。
沖縄のランキングは、比嘉、金城、大城、宮城、上原、新垣、島袋、平良、玉城、山城と続くが、本土とはまったく違う「沖縄型」の構成になっている。「ウチナーグチ」という方言とかつて琉球王国だったことが要因だ。
同様なことは江戸時代に独自の鎖国政策を敷いていた薩摩藩があった鹿児島にも言えるようだ。9位までは比較的普通の名字だが、10位以下は「有村」「福元」「鮫島」「大迫」「福留」など県外ではあまり見られない名字が並ぶ。
また、奄美群島では、「栄」「森」「泉」「林」「平」「中(あたり)」「元(はじめ)」など漢字一文字の名字が多いのも特徴だ。
「江戸時代に薩摩藩が一字名字を強制したのが理由で、琉球の一部に偽装して中国との貿易を円滑に進めるためだったという」
東西で名字の分布が異なるというが、その境界はどこにあるのか。日本海側は富山のようだ。全国的にはトップ1、2位を占める「佐藤」「鈴木」がベスト50にも入っておらず、「山本」「林」「吉田」「中村」「山田」という関西に多い名字が上位に並ぶ。
太平洋側ははっきりとしないが、三重県内でゆるやかに分岐しているという。県北部は伊藤が圧倒的に多く、加藤、小林も多い「東日本型」、関西に近い伊賀は山本、田中が多い「西日本型」だ。
多い名字に絞って紹介したが、地域ごとに珍しい名字があることがわかった。日本には名字が10万種類あるというから、とても言及しきれない。テレビを見ていると、森岡さんは珍しい名字のルーツをすかさず言い当てるから、その蓄積には驚くばかりだ。
第2部は「名字なんでもトリビア」。いくつか見出しを並べるとこうなる。
・昔は勝手に名字を変えることができた? ・東西南北を含む名字で一番多いのは? ・「松平」に比べて「徳川」がめったにいないわけ ・「長谷川」を「はせがわ」と読むわけ ・「菊池」と「菊地」の違い
評者は割とメジャーな名字だが、ルーツが1カ所に限定されていることも本書で知った。以前、出身地から遠く離れた大阪市内に私の苗字と同じ名前の橋があり意外に思ったことがある。まさにそこがルーツだったのだ。橋に名を残す祖先は承久の乱で没落し全国に散り、今日に至るというわけだ。図らずも「自分探し」が出来た一冊となった。
BOOKウォッチでは、森岡さんが監修した『日本人のおなまえっ! 日本がわかる名字の謎』(集英社インターナショナル 発行、集英社 発売)のほか、『日本人の名前の歴史』(吉川弘文館)、『公家源氏――王権を支えた名族』 (中公新書)、『天皇と戸籍――「日本」を映す鏡 』(筑摩選書)、『戸籍が語る古代の家族』(吉川弘文館)などを紹介している。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?