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コロナ生還の英国チャールズ皇太子、いま何歳?

エリザベス女王

 名前はあまりも有名だが、いったいどういう人なのか。本書『エリザベス女王』(中公新書)には、「史上最長・最強のイギリス君主」という副題が付いている。1952年から在位68年。この4月21日に94歳になった。その間に多数の歴史的な出来事があり、身内のスキャンダルにも事欠かない。まともに書いたら全10巻以上になりそうな波乱に満ちた人生を手際よく圧縮、「評伝」として紹介している。

少女時代に戦争に組み込まれる

 エリザベス女王は1926年生まれ。父はのちの君主ジョージ6世。ヨーロッパではナチスドイツが次第に勢力を増していた。39年には英仏とドイツの戦争が始まる。まだ少女だったエリザベスは、早くも40年、ラジオの「子どもの時間」という番組に出演し、「私たちは勇敢な海陸空の兵士たちを助け、戦争という危険で悲しい出来事を耐え忍ばなければなりません」と訴えかけた。大人にも大きな反響を呼んだという。当時すでに国家を背負って立つ自覚が芽生えていたのかもしれない。

 15歳を過ぎると、近衛歩兵第一連隊の連隊長。18歳の誕生日を迎えた44年の4月には、国事行為臨時代行のひとりに任命されている。45年2月には、イギリス陸軍が組織する婦人部隊「補助地方義勇軍」に入隊。士官候補生になり、軍用トラックで物資を輸送する任務に就く。大型自動車の整備や修理なども習得していたという。本書には当時の軍服姿の写真も掲載されている。王女ではあったが、10代半ばから後半にかけて、かなり深く戦争に組み込まれていたことがわかる。

 本書の著者の君塚直隆さんは1967年生まれ。立教大学文学部史学科卒業。英国オックスフォード大学セント・アントニーズ・コレッジ留学。上智大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程修了。博士(史学)。東京大学客員助教授、神奈川県立外語短期大学教授などを経て、現在、関東学院大学国際文化学部教授。専攻はイギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史。『ヴィクトリア女王』(中公新書)、『ヨーロッパ近代史』(ちくま新書)、『立憲君主制の現在』(新潮選書、第40回サントリー学芸賞受賞)など多数の著書がある。

16か国の女王陛下

 本書を読んで再認識したのは、イギリス君主というのは他国の君主とは全く違うということだ。イギリスだけの君主ではない。カナダやオーストラリア、ニュージーランドなど「英連邦王国」16か国の女王陛下でもある。各国の国家元首であり、「国の顔」。それぞれの国の紙幣に女王の顔が印刷されている。

 このほか、旧植民地だった国々をまとめて「コモンウェルス」を形成しており、2020年1月現在で53か国もあるという。かつての大英帝国のすごさを痛感する。地球の4分の1余りはイギリスが支配していたわけだ。

 つまりイギリスの君主は、イギリス以外の国々のことも考えて行動せざるを得ない。それが一国だけの君主と大きく異なるところだろう。実際、女王は即位後の1953年11月、旧英連邦諸国を中心とした世界周遊の旅に出ている。船や航空機を利用して半年がかり。本書では「顔見世興行」と書いている。それほど多くの関係国があるということだ。

 イギリスは立憲君主制。議会開催中は、毎週一度は首相と会見する。68年間の在位期間中に首相はチャーチルなど14人。折々の政治課題などについて長時間にわたり話し合う。その内容は極秘とされているが、サッチャー元首相は「この拝謁が単なる形式的なものだとか、社交上の儀礼に限られているなどと想像する者がいたら、それは完全な間違い」と語っているという。君塚さんは、「女王はカナダやオーストラリアの女王でもあり、各国から届く情報に関してはイギリス首相でも及ばなかった」と指摘している。

日本との関係改善は最後

 英連邦以外の国々との親善促進も大事な仕事だ。まだ王女だった1948年、フランスを訪問した時は、完璧なフランス語であいさつし、パリっ子たちを魅了した。2011年に、イギリスの国王として実に1世紀ぶりにアイルランドを訪れた時は、晩さん会で演説の冒頭をアイルランド語で語りかけた。いろいろと気配りし、準備もしていることがわかる。

 1960年代には、第二次世界大戦で交戦した国々との「戦後和解」にも取り組んだ。61年にはイタリア、65年にはドイツを訪問した。日本との関係改善は最後になった。捕虜にしていたイギリス兵に対する日本軍の「虐待行為」の問題が尾を引いていたらしい。71年に天皇が訪英、75年に女王の来日が実現して区切りがつく。来日時に女王は、神奈川県保土ヶ谷にある英連邦戦死者墓地を訪れた。そんな墓地があることは、日本人の大半は知らないだろう。その後、イギリスの王族が来日するときは、必ずここを訪れるという。このあたりは、自国向けの細かい気配りを感じる。

 イギリス王室はスキャンダルでも知られる。ジョージ5世(在位1910~1936)の後を継いだ長男のエドワード8世は、離婚歴のあるアメリカ人女性ウォリス・シンプソンとの「王冠を賭けた恋」で有名。王位よりも恋を選んで、1年足らずで退位した。結局、弟がジョージ6世(在位1936~1952)として後継即位。長女だったエリザベスがさらに後を継いだ。

 夫のエディンバラ公との間には3男1女をもうけたが、長男のチャールズはダイアナ妃と離婚して再婚、アン王女も離婚して再婚、次男のアンドルーも離婚。チャールズの2男のうち、弟のヘンリーは、アメリカ人の女優メーガン・マークルと結婚し、王室からの離脱を表明するなどややこしい。これらの問題は常にゴシップ記事になって全世界を駆け巡る。

 女王の足元はごたごた続き。心労が絶えなかったことだろう。25歳で即位したとき、チャールズはまだ3歳3か月。子育てよりも公務を優先せざるを得なかった。本書は「第一に女王、第二に妻、第三に母」という立場の難しさを慮っている。

国民の半数が「無宗教」に

 だれしも気になるのは女王の高齢。本書によれば、2010年代に入ってから、ヨーロッパでは、エリザベス女王よりも年下の君主たちが次々と譲位している。オランダのベアトリクス女王は75歳で、ベルギーのアルベール2世は79歳で、スペインのフアン・カルロス1世は76歳で。イギリスでは「譲位」という慣習はないそうだが、皇太子が「摂政」になった前例はある。継承権1位のチャールズはもう71歳。しかし、女王には退位する意思などない、と君塚さんは言う。自分自身の戴冠式のときに、その人生のすべてをこの国に捧げると神に誓ったのであるからと。ちなみにチャールズは3月末に新型コロナに感染したが、回復。女王は感染していないと伝えられている。

 本書の最後のところで君塚さんは、世論の微妙な変化も挙げている。少し古いデータだが、1999年の調査では「王室がなくなると、イギリスの状況が今より悪くなると思うか?」という問いに「悪くなる」は44%、2000年の調査で「今後50年以内にイギリスは共和制に移行するか?」に対しては50%が「移行すると思う」、2010年の調査で自分は「キリスト教徒」という人は42%に対し、「無宗教」が51%。こうしたデータから、「イングランド国教会の首長」としてキリスト教の各種行事も取り仕切る女王や王室が、今後も「国民の統合の象徴」と言える存在になり続けることが果たして可能なのか。本書はそのあたりにも踏み込んでいる。

 21世紀になってもなお、「大英帝国」の残影を一身に背負う英国女王。本書を読んで素人読者である評者が感じたのは、もしも大英帝国があれほど全世界に版図を広げていなかったら、女王の公務はもう少し楽になり、子育てにもっと手をかけることができたに違いないということだ。ひょっとしたらダイアナ妃の人生も、違っていたかもしれない。

 BOOKウォッチでは関連で『戦慄の記録 インパール』(岩波書店)、『真実の航跡』(集英社)、『秘蔵写真200枚でたどるアジア・太平洋戦争――東方社が写した日本と大東亜共栄圏』(みずき書林)、『独ソ戦――絶滅戦争の惨禍 』(岩波新書)なども紹介している。

   
  • 書名 エリザベス女王
  • サブタイトル史上最長・最強のイギリス君主
  • 監修・編集・著者名君塚直隆 著
  • 出版社名中央公論新社
  • 出版年月日2020年2月18日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数新書判・288ページ
  • ISBN9784121025784

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