2020年3月30日から放送が始まったNHKの朝ドラ「エール」の主人公のモデルは国民的作曲家の古関裕而だ。東京五輪の「オリンピック・マーチ」、全国高校野球大会の「栄冠は君に輝く」、阪神タイガースの「六甲おろし」などのほか、「君の名は」「鐘の鳴る丘」など数多くの歌謡曲を作ったことで知られる。本書『君はるか』(集英社インターナショナル 発行、集英社 発売)の著者は、長男の古関正裕さん。父母が交わした若き日の往復書簡を元に綴った、愛の物語である。
古関裕而(本名・勇治、1909-1989)は、福島市生まれ。福島商業学校に在学中独学で作曲、編曲を学んだ。卒業後は伯父が経営する福島県川俣町の川俣銀行に勤務しながら、山田耕筰に作品を送り、指導を仰いだ。
そんな東北に住む銀行員が愛知県豊橋市に住む18歳の女性、内山金子とどうやって知り合ったのか。物語はそこから始まる。
勇治は舞踊組曲「竹取物語」を英国の楽譜出版社チェスター社主催の国際作曲コンクールに応募、第2席に入選する。「無名の青年の快挙 国際作曲コンクール入賞」の見出しで全国に報道され、記事を読んだ金子はどんな人だろうと想像した。声楽家志望の金子は、すごい才能の持ち主に指導してもらえたら、と夢想し、手紙を書いた。宛先は「福島県川俣町、川俣銀行内」とした。
手紙を受け取った勇治は、ありきたりのファンレターかと思ったが、同じ音楽を独学で勉強している同志と知り、心が動いた。
「いつか機会がありましたら、是非一度私の歌を聴ひて頂ひて、アドヴァイスを頂けたらと思ひます。(中略)私は独りで興奮しております。素晴らしい方の存在を知ってです。その興奮のまま、このやうな不躾なお手紙を差し上げた事、どうかお許し下さゐませ......」
勇治は3歳下だという金子にすぐ返信を書いた。
「心のこもったお手紙、どうも有難うござゐます。同じ音楽の道を志す方からの言葉を私は嬉しく読みました......」
勉強法と励ましの言葉を書き、自分は東京に出てから渡欧する予定であることを伝えた。
こうして二人の文通が始まった。本書は「第一楽章 アダージョ カプリッチオーソ(ゆったりと きままに)」、「第二楽章 アンダンテ カンタービレ(ゆっくりと 歌うように)」、「第三楽章 アレグロ ドルチェ(速く 甘く)」、「第四楽章 プレスト アパッショナート(とても速く 情熱的に)」と音楽的なタイトルとともに進行していく。
第三楽章では、勇治からこんな手紙が届く。
「金子さん 最も良き私の理解者となって下さい。私よりの最大の願ひです。この貧弱な作曲家をお助け下さい。私の歌謡曲は、貴女にのみ、お送り致します」
二人はしだいに愛を語るようになり、シューマンとクララに自分たちを重ね合わせ始める。
洋行するか否か勇治は迷うようになる。自分一人分の旅費はチェスター社から出るが二人分は出ない。結婚を申し込むべきか。いつまで待ってくれるのだろうか。思い悩んだ勇治は山田耕筰に手紙を書いて相談する。その返事は......。
1930年1月の新聞報道をきっかけに文通は始まり、二人は6月に結婚する。勇治はその後次々と歌を作曲し、生涯で残した楽曲は5000とも言われる。金子も戦前、声楽家として活動した。
著者の古関正裕さんは、1946年生まれ。早稲田大学理工学部を卒業、日本経済新聞社に入社。1998年に早期退職し、バンドなどの音楽活動を開始。古関裕而の楽曲を中心にライブ活動を続けている。2009年に古関裕而生誕百年記念CD全集の企画・監修で日本レコード大賞企画賞を受賞。ちなみに1930年の二人の出会いについて父が語ることはなかったそうだ。
NHKの朝ドラ「エール」では、窪田正孝さんと二階堂ふみさんが、二人を演じるが、表紙の写真を見ると、モデルは二人とも少しふっくらしているようだ。ドラマで約半年間の文通期間がどう演じられるか楽しみだ。
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