本を知る。本で知る。

5Gのサービス始まるが、フル活用は数年先に

60分でわかる! 5Gビジネス 最前線

 2020年3月5日、携帯キャリア大手3社の中で、いち早くソフトバンクが5Gの商用サービス開始時期を発表した。3月27日から新サービスが始まる。日本でもいよいよ動き出した5Gについての分かりやすい解説書が、本書『60分でわかる! 5Gビジネス 最前線』(技術評論社)である。著者は携帯電話・モバイル通信専門ライターの佐野正弘さん。

映画のダウンロード数秒で

 5Gとは第5世代のモバイル通信規格のことで、最近耳にすることが増えてきた。無線で電話ができるようになった1G(アナログ通信の第1世代)の時代から約30年で携帯電話は劇的に進化を遂げてきた。

 5Gの特徴は3つある。

 1 高速大容量通信 現在数分かかる2時間の映画のダウンロードが数秒に
 2 低遅延 医療や自動運転の遠隔操作が本格的に実現する
 3 多数同時接続 現在の100倍のデバイスが同時に接続できる

 いいことばかりの5Gのようだが、その真価がフルに発揮されるようになるのはまだ先のようだ。本書は以下の構成で、5Gについて、その技術からビジネスへの応用まで解説している。

 第1章 今さら聞けない! 5Gの基本
 第2章 今すぐ知りたい! 5Gで変わる生活やビジネス
 第3章 そうだったのか! 5Gを支える技術
 第4章 世界中が注目! 5Gを取り巻くベンダーやキャリア
 第5章 どうなる!? 5Gが実現する未来と課題

 第1章の「日本国内での5Gの展開予定」を読んで知ったのだが、当初から5Gの性能をフルに活用できるわけではないという。当面は4Gのネットワークの上で5Gによる通信が使える「ノンスタンドアローン」方式での運用となり、5G専用のネットワークで動作し、低遅延など5Gの真の力が発揮できる「スタンドアローン」での運用は2021年なかばになるという。

今のスマホにはオーバースペック

 3月17日のニュースで5G対応のスマホを紹介していたが、本書によると、今のスマホでは5Gはオーバースペックだという。その理由は、8K映像を楽しむには画面が小さすぎる、動画以外に高速通信を生かせるサービスがない、低遅延が生きるのはゲームくらい、片手で持てるサイズに限界があり、大画面化が難しいことだ。

 サムスンとファーウェイから折りたたみスマホが出ているが、ほかのデバイスが浮上する可能性もあるようだ。佐野さんは、5Gに対応したパソコンの登場に注目する。

 マイクロソフトが「Always Connected PC」をすでに発表、パソコンの形も変わってゆく可能性があるという。

3キャリアの戦略

 第4章によると、日本のキャリアはそれぞれ独自の5G戦略を持っているようだ。最大手のNTTドコモは3G導入時の苦い経験からサービス提供を急がず、サービス開発に力を入れている。KDDIはNTTドコモに並ぶ3つの周波数帯域を獲得し、広いエリアで地方でのビジネスを強化する戦略だそうだ。これに対してソフトバンクは当面は5Gで主要な都市をカバー、大都市圏の大口顧客を中心としたビジネスを強化するとみられる。

 通読すると、5Gのすべての恩恵を受けるには2、3年の期間が必要なようだ。当初は「高速大容量通信」しか利用できない。「低遅延」が実現するには、すべてのネットワーク設備が5G対応になる「スタンドアローン」に移行する必要があり、導入から2、3年はかかりそうだ。さらに「多数同時接続」となると、まだ標準化の最中で、さらに先になる見込みだ。

 5Gのエリアもすぐには広がらない。地方では未だに3Gしかつながらないエリアがまだまだある。日本には3G、4G、5Gと3つのモバイル通信規格がしばらく併存することになりそうだ。大都市と農山村との情報格差はますます拡大し、大都市圏への人口集中が加速する要因になるかもしれない。

 評者にはもう一つ気がかりなことがある。日本のキャリア各社は2020年の東京オリンピック開催に合わせて5Gのエリアを展開することにしていた。新型コロナウイルスの感染拡大により、7月のオリンピックの延期や中止が語られるようになった今、5Gは当初のスピードで拡大するのか? こんなところにも影響は出るかもしれない。

  • 書名 60分でわかる! 5Gビジネス 最前線
  • 監修・編集・著者名佐野正弘 著
  • 出版社名技術評論社
  • 出版年月日2020年2月 6日
  • 定価本体1100円+税
  • 判型・ページ数四六判・159ページ
  • ISBN9784297111212
 

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?