読むべき本、見逃していない?

長崎の島を舞台に現在と過去が交錯する「芥川賞受賞作」

背高泡立草(せいたかあわだちそう)

 先月(2020年1月)、第162回芥川賞を受賞したのが、本書『背高泡立草(せいたかあわだちそう)』(集英社)である。著者の古川真人さんは、4回目の候補で受賞したが、舞台はデビュー作から一貫して長崎の島だ。方言が中心の文体とあいまって、どこか反時代的な雰囲気を感じさせる。

草刈りに島へ向かう一族

 大村奈美は、母の実家・吉川家の納屋の草刈りをするために、母、伯母、従姉妹とともに福岡から長崎の島に向かう。吉川家には<古か家>と<新しい方の家>があるが、祖母が亡くなり、いずれも空き家になっていた。奈美は二つの家に関して、伯父や祖母の姉に話を聞く。

 草刈りにかかわる現在進行形の話と過去の島での出来事が交互に登場する形式だ。たとえば「遊飛熱」というエピソードは、戦前に島から満州へ渡ろうという男の話。島には海の向こうに出ていく者と、海からやってくる者がいつの時代もいた。

 江戸時代には蝦夷まで行き、捕鯨をした男がいたし、戦後は故郷の朝鮮に帰ろうとして難破し、島の漁師に救助された人々がいた。さらに現代ではカヌーに乗って鹿児島から来たという少年もいた。

時空を超えたエピソード

 それらのエピソードが草刈りに訪れた一行の話の間に挿入され、不思議な効果を生んでいる。

 芥川賞選考委員の島田雅彦さんは本作について、「時空を超えたエピソードを織り込みながら、土地に根付いた歴史的な重層性を巧みにすくい上げている。語り口も以前より読みやすくなっていた」と評した。

 デビュー作から前回候補になった『ラッコの家』まで同じ一族をモチーフにしているため、前回の選考ではシリーズものの扱いをされ、「家系図がないと読めない」などと厳しい評価があったという。しかし、今回は、趣を変え、前回までに指摘された課題をクリア―したと見る選考委員もいて、受賞に至ったようだ。

「同じことをくどくどと書きたい」

 受賞会見に現れた古川さんは、このモチーフや九州の方言について「自分にとって一番すらすら出てくるもの。今後も鈍重に同じことをくどくどと書いていきたい」と抱負を語っていた。

 「サーガ」(一族の歴史を描いた物語群)という言葉が質問する記者から出た。かつて中上健次は紀州の枯木灘を舞台にした壮大な「サーガ」をつむぎ出した。

 長崎の平戸とおぼしき島を舞台に、古川さんはどんな物語を書き続けるのだろうか。新しい方法論を導入したので、時代も語り口も自由自在だ。1か所を掘り下げることによって、どこまで到達できるか、注目したい。

  • 書名 背高泡立草(せいたかあわだちそう)
  • 監修・編集・著者名古川真人 著
  • 出版社名集英社
  • 出版年月日2020年1月30日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判・143ページ
  • ISBN9784087717105

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