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メガネ業界を舞台にした実話エンターテインメント小説

破天荒フェニックス

 メガネチェーンのオンデーズは経営陣の放漫経営により、2008年には債務超過に陥っていた。そこに小さなデザイン企画会社を経営していた田中修治さんが個人で70%の第三者割当増資を引き受け筆頭株主になり、代表取締役社長に就任する。ロン毛で茶髪の30歳の社長は果たして会社を再生させることができるだろうか。本書『破天荒フェニックス』(幻冬舎文庫)は、その過程を描いた実話エンターテインメント小説である。

ジェットコースターのような面白さ

 年間の売上が20億円しかないのに、銀行からの借金が14億円。返済額が月に8000万円から1億円もあり、しかも、毎月営業赤字が2000万円近く出ているという、いつ倒産してもおかしくない会社だった。

 元銀行マンの財務の専門家とともに乗り込む。新しい方針を打ち出し、業績は上向くが、資金繰りはいつも火の車だった。チャンスとピンチが交互に繰り返し、読者はジェットコースターに乗ったような気分で、あっという間に最後のページに着くだろう。

 おもな登場人物は実名だが、おそらく仮名と思われる悪役も随所に登場する。フィクションとして再構成されているので、企業経営の難しさを学びながら十分に泣き笑いが楽しめる。

メガネ屋に付きものだった追加料金

 メガネほど近年、価格破壊が進んだ業界もないだろう。20年くらい前までは1万円以上するのが当たり前だったが、今は5000円から7000円で買うことが出来るようになった。

 本書にその仕組みがわかる部分がある。オンデーズが成功局面に入ると、業界最大手の会社は「薄型非球面レンズ0円」で対抗してきた。これまでは、値札の安さにひかれて買おうとする客に「薄型非球面レンズ」を勧め追加料金を得ることで収益を確保するのがオンデーズに限らず、メガネ屋のビジネスモデルだった。追随して「即死」するか、追随せずにゆっくり「衰弱死」するかの選択を迫られる。ライバルは大量に売るので、仕入れ価格を安くすることが出来たのだ。

 田中さんは1年だけ様子を見ることにした。そして、「安売りセールの連続とFC店舗の拡大でなんとかキャッシュフローを回し、ギリギリの中、いつ破綻するかわからない風船に怯えながら空気を送り込み続けるかのように、全国に店舗数を増やし続けていった」。

東日本大震災で知ったメガネ屋の使命

 そんな時に未曽有の惨事が襲う。2011年の東日本大震災だ。東北にあった10店舗はすべて被災して完全に営業停止。資金ショートは確実だった。銀行への返済を再度繰り延べることにより、首の皮一枚でつながった。「まさに地獄の釜の縁の上で、煮え滾る釜の底になんとか落下せずに済んだ。そんな感じだった」。

 被災地の避難所で出張メガネ店を開き、無料でメガネを提供した。そこで会ったおばあさんに、自分たちは視力という、人々の生活に欠かせないもの、とても重要なものを扱う仕事をしているのだ、と気づかされた。

 本当に売らなければならないのは、安いメガネでもお洒落なメガネでもなく「メガネをかけて見えるようになった素晴らしい世界」だった、と書いている。研修を徹底し、独自の資格制度を設け、社員のメガネ屋としてのスキルの「見える化」を行った。

 メガネの大産地である福井県鯖江市のメーカーとの新素材を使った協業、2年遅れの「薄型非球面レンズ0円」の導入、シンガポールを皮切りとした海外への出店とプラスの出来事の合間にも資金ショートのピンチが訪れる。なんとか切り抜けながら、最後に大きな山場を迎える。主要取引銀行からの申し出を受けた総額12億円のシンジケートローンの組成はうまく行くのか、そして銀行取引の正常化は訪れるのか。

 銀行からの新規融資が受けられないまま、突っ走ってきた田中さん。売上も店舗数も増やしたが、「黒字倒産」しかねない危機だった。その時救いの手を差し伸べたのは......。

 本書は、会社のファン獲得のため田中さんがネットに連載した小説が編集者の目にとまり、実話をもとにしたエンターテインメント小説として、2018年に刊行された。そして重版を重ね、この正月(2020年)明けにはテレビ朝日系でドラマも放送された。

 メガネを手ばなせず、今は別のチェーンの製品を使っている評者だが、この小説を読み、オンデーズの店舗に行ってみようと思った。広告会社を使わず、社長自ら書いた小説でみごとなブランディングを展開したのである。

 いまオンデーズは、日本、シンガポール、台湾、タイ、フィリピンなど世界12ヶ国で320店舗を展開している。何度も危機を乗り越えた姿は、まさに「不死鳥=フェニックス」のようである。

  
  • 書名 破天荒フェニックス
  • サブタイトルオンデーズ再生物語
  • 監修・編集・著者名田中修治 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2019年11月15日
  • 定価本体880円+税
  • 判型・ページ数文庫判・589ページ
  • ISBN9784344429161
 

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