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虐待死、京アニ大量殺人、セブン・ペイ・・・ 2019年BOOK回顧(6)

虐待死

 近年の日本の犯罪の特徴は、虐待死、大量殺人、ネット悪用の三つではないだろうか。2019年は、それぞれに特異な事件が起きた。

 1月には千葉県野田市で小学校4年生の少女が虐待で死亡。7月には京都市で「京都アニメーション」放火大量殺人。ネット犯罪は「漫画村」摘発や「セブン・ペイ事件」など枚挙にいとまがない。「BOOKウォッチ」紹介本から振り返る。

6人が所在不明

 児童虐待死はこのところ繰り返されている。18年の目黒女児虐待事件は記憶に新しい。19年には野田市の事件のほか、12月には東京・豊洲のタワマンでも3歳児を暴行死させた疑いで会社員が捕まった。

 関連書も目立つようになっている。『虐待死』(岩波新書)は正面からこの問題を取り上げたものだ。「なぜ起きるのか、どう防ぐか」というサブタイトル。著者の川崎二三彦さんは1951年生まれ。京都大学文学部の哲学科を卒業し、32年間、児童相談所に勤務。2007年から子どもの虹情報研修センター(日本虐待・思春期問題情報研修センター)研究部長となり、15年からセンター長。政府の「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」の委員や委員長を務め、野田市の事件では、県の検証委員会の委員長。

 同書によると、児童相談所における虐待対応件数は90年度が1101件だったが、98年度には5352件と約5倍に増え、2000年に児童虐待防止法が制定された。

 事件のたびに、児童相談所の対応が適切だったかが問題になるが、2000年を基準とした全国の児童虐待対応件数は何と約7.5倍。ところが児童福祉司の数は約2.5倍にとどまっている。現場の対応が追い付かない。一概に児童相談所を責めることはできないといえる。

 野田市の事件を受けて、厚労省は全国の児童相談所が在宅指導している虐待事案の安全確認をしている。12月段階で18歳未満の6人が所在不明だという。

ネットは殺意を加速する

 大量殺人とネットに関連する本としては、『ルポ 平成ネット犯罪』(ちくま新書)がある。08年に起きた秋葉原無差別殺人の加藤智大被告はネットに深く関わっていた。そこでの孤立が事件のきっかけだったとされる。17年に神奈川県座間市で男女9人の遺体が見つかった事件では、白石隆浩被告がネットで5つのアカウントを使って被害者たちを誘っていた。

 同書には、「ネットアンドセキュリティ総研」が15歳以下の男女を対象にした調査が掲載されている。それによると、「ネット利用中に誰かを殺したいと思ったことはあるか」という問いに、39%が「ある」と回答している。その相手は「学校の友達」が21%でトップだ。ネットは顔が見えないから、感情を制御しにくい。同じ調査では66%が「ネット利用時に頭にきた」ことがあると答えている。

 ネットには大量の情報があふれているので、視野を広くすると思われがち。ところが、『その情報はどこから? 』(ちくまプリマー新書)『によると、ネットは、ユーザーが見たいと思う情報をユーザーの関心事に合わせて提示する機能があるので「自分が見たい、知りたい」と思う情報ばかりに囲まれてしまうリスクがある。つまり、人間を「閉鎖的」にしかねない装置なのだという。

 心理学的には「確証バイアス」も問題だ。これは、「自分が支持し、肯定する情報」ばかり信じてしまう傾向を指す。これまた幅広くネットサーフィンをしているつもりでも、自分に都合の良い、耳触りの良い情報の海を回遊しているだけに過ぎないという状態に陥りがちだ。

「仮想通貨という魔窟」

 ネットがらみの犯罪を追及した本は今年も多数出版された。『暴走するネット広告――1兆8000億円市場の落とし穴』(NHK出版新書)は、人気漫画を無料で読める海賊版サイト「漫画村」について、丹念な取材で迫った。「漫画村」は18年4月に接続できなくなって闇に消えたが、19年7月、「漫画村」運営者とみられる星野路実容疑者がフィリピンで拘束され、運営に関与したとされる二人が逮捕された。

「7pay」も大騒動になった。7月にサービスを始めたが、すぐに大規模な不正利用が判明。廃止に追い込まれた。セキュリティ対策の甘さが指摘された。大企業が巻き込まれたこともあり、衝撃が大きかった。海外からの不正アクセスが取りざたされた。

 『フェイクウェブ』(文春新書)は、こうした国際的なネット犯罪について詳述している。名門企業も騙される偽メール、偽ニュース、偽広告・・・。著者の高野聖玄さんはセキュリティ集団スプラウト代表。「仮想通貨という魔窟」「フェイクニュースとネット広告の裏側」などについても触れられている。

 同書によると、ネット空間はオープン志向で広まってきた経緯があり、それによって皮肉なことにサイバー攻撃する側が有利な環境になっているという。誰もが自由に使える技術として広まったオープン・ソースは、すべての技術が公開されるという性質から、同時にサイバー攻撃に対して脆弱性を持っているというわけだ。

国家もネットを悪用する

 ネットによる様々な工作には、今や政府や国家の側も関わっていることを教える本もあった。

 『サイバー完全兵器』(朝日新聞出版)によれば、この10年間で国家による他国へのサイバー攻撃は200件を超えていると推計されている。当初は3、4か国にすぎなかったサイバー攻撃能力を持つ国もどんどん増えて、今や約30か国に膨れ上がった。

 ロシアがアメリカの原発や送電線にマルウェアを忍び込ませる。あるいはウクライナで大規模な停電を引き起こす。イランがアメリカの金融機関に侵入する。北朝鮮がアメリカの銀行やハリウッド、イギリスの保険・医療システムに入り込み、各国中央銀行にサイバー窃盗を仕掛ける。中国はアメリカ国民2200万人の私的情報を盗み出す。これらの一つひとつについて、攻撃側はとくだん「戦果」を吹聴しない。もちろんアメリカ自身が最大のサイバー大国だ。

 『「いいね! 」戦争――兵器化するソーシャルメディア』(NHK出版)によれば、今ではどんな紛争にも「三つの前線」が存在するという。一つは「物理的戦線」。もう一つは「サイバー戦」。そして三つ目の前線が「ソーシャルネットワーク戦」。ネットを通じた世論工作だ。

 アメリカ大統領選挙やイスラム国など、世界的にもよく知られた話を導入にしながら、「世界で最も影響力のある国家から、最も小規模な炎上合戦の戦闘員まで、現在の戦士は全員・・・戦争において、ソーシャルメディアを兵器に変えてきた」と解説している。

 「サイバー戦」や「ソーシャルネットワーク戦」では国家や政府が前面に乗り出す。もはや特殊な犯罪者だけが、ネットを悪用しているわけではない時代となっている。

  • 書名 虐待死
  • サブタイトルなぜ起きるのか、どう防ぐか
  • 監修・編集・著者名川崎二三彦 著
  • 出版社名岩波書店
 

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