読むべき本、見逃していない?

大嘗祭は「稲の祭祀」ではなかった!

  • 書名 縄文の神が息づく 一宮の秘密
  • 監修・編集・著者名戸矢学 著
  • 出版社名方丈社
  • 出版年月日2019年9月13日
  • 定価本体1850円+税
  • 判型・ページ数四六判・256ページ
  • ISBN9784908925511

 型通りの神社ガイド本――なのかと思っていたら、もっと深く掘り下げられていた。『縄文の神が息づく 一宮の秘密』(方丈社)。なかなかの力作だと思う。全国の神社について、なるほど、そうだったのか、という興味深い話が満載されている。11月に大嘗祭が行われるが、その前に一読しておくと、謎の行事に対する理解がいちだんと深まるはずだ。

48社を厳選

 一宮、二宮、三宮、四宮。あるいは大宮、小宮など「宮」が付く人名や地名は多い。本書は「宮」=「神社」をテーマにして考察したものだ。

 全国にはざっと8万社の神社がある。各地域でいちばんの神社を「一宮」というそうだ。根拠は何か。ひとつは、927年に完成した全50巻に及ぶ平安時代の法令集『延喜式』。その中に「延喜式神名帳」というのがあって、そこに全国で2861社の神社名が記されている。さらにその中で224社が「名神大社」(とくに霊験あらたかとされる神)になっている。これが神社についての最古の公式記録、ランキングだという。

 一方で、地域ごとに古くから「一宮」と呼ばれている神社がある。主として民間レベルの呼び方だ。「名神大社」と重なる神社が多い。あるいは、正式な神社名そのものに「一宮」が含まれているものもある。室町時代に成立したとされる一宮神社についての最古の資料『大日本国一宮記』には67社が掲載されている。

 これら各種の資料から、本書が絞り込んだ名実ともに地域を代表する「一宮」は全国で48社。出雲大社、諏訪大社、鹿島神宮、住吉大社、宇佐神宮、厳島神社などの有名どころから、全国的な知名度では劣るものまで多彩だ。各種の神社ガイド本の数字よりも厳選している。

 著者の戸矢学さんは1953年生まれ。國學院大學文学部神道学科卒。『神道入門』『氏神事典』『怨霊の古代史』『深読み古事記』など多数の関連書がある。

埼玉県民は元気づく

 本書は8章に分けて、地域ごとの代表的な「一宮」の由緒をたどっていく。関東地方、とりわけ埼玉県民にとって大いに興味をひかれるのは「氷川神社」についての説明だろう。本書では、さいたま市(旧・大宮市)にある氷川神社が武蔵国の一宮とされているからだ。

 かつての武蔵国は現在の埼玉県と東京都を合わせたエリアとほぼ同じだ。武蔵国の中心は府中(東京都府中市)だったが、国府が設けられたのは8世紀の初めのこと。それまでは、武蔵国造の依拠する大宮が中心地だった。したがって「一宮」は府中の大国魂神社ではなく、大宮の氷川神社というわけだ。つまり東京よりも埼玉が由緒があるということを明かす。たしかに神社のHPを見ると、「2400年以上の歴史をもつといわれ、大いなる宮居として大宮の地名の由来にもなった日本でも指折りの古社。武蔵一宮として関東一円の信仰を集め・・・」と記されている。

 大宮の氷川神社は、全国に291社ある氷川神社の総本山。このうち251社は武蔵国にある。氷川神社は「武蔵ローカル」で圧倒的な存在感を持つ特異な神社でもある。

 明治天皇は東京に入ってわずか4日目の明治元年10月17日、大宮の氷川神社を武蔵国の総鎮守とし「勅祭社」と定めた。10日目には早くも大宮に行幸、翌日にはみずから御親祭を執りおこなったというから、重視ぶりには何か特別なものを感じる。

 著者は以下のように推測している。氷川神社の神として祀られた人物は、かなり早い時期に武蔵一帯を統治していたに違いない。周囲を見渡すと、大宮の北方約30キロに「鉄剣」で有名になった稲荷山古墳がある。一帯の「埼玉古墳群」は前方後円墳8基などを持つ全国有数の規模だ。この近辺にかつて"小国家"、もしくは"地方政権"が存在していたことは確かだろう・・・。

 氷川神社自身の「由緒」には、「大和朝廷の威光が東方に及ぶにつれて、当神社の地位も重くなった」とあるそうだ。著者は、朝廷が東国を支配するために氷川神社を利用したと見ている。征服ではなく「共存共栄」の道を選んだのだ。それほどの勢力があったということなのだろう。映画などで何かとバカにされる「埼玉」だが、郷土史を見つめ直してみる契機にもなりそうだ。

縄文と弥生の共生

 本書ではもう一つ、徳島の大麻比古神社についての話が面白かった。徳島の旧名は阿波。それは「粟(アワ)」の産地だったから。粟は、稲の栽培が盛んになる前から食料として利用され、大地の恵みの最たるもの。すなわち神前に供えて感謝する産物だった。考古学的には、日本には縄文時代から存在していたことが分かっている。

 この「縄文」とは、表面に縄目を記した土器に由来する。この「縄」は麻縄で付けられた。縄文時代において「麻」はそれほどポピュラーな植物だった。麻は神事でも、きわめて重要な役回りがある。神具のいくつかには必須であり、大麻でつくられた巨大なハタキのようなものによるお祓いの儀式は今も地鎮祭などで見られる。

 そして大嘗祭。そこでは麻の織物「あらたえ」と、絹の織物「にぎたえ」が献納される。神前に供える食物は「粟」と「稲」をともに献上する。一般的には、「大嘗祭は稲の祭祀」と思われているが、著者は、「粟+麻」と「稲+絹」の儀式と見なす。「粟」と「麻」は縄文の、「稲」と「絹」は弥生の象徴であり、「大嘗祭は、この両者の共生を示す祭祀」というわけだ。

 著者は、麻は大麻でもあり、古代の人びとは麻を単に縄や衣服で用いただけではなく、「麻酔い」で神がかり状態になったり、薬にもなるという特別の効能についても知っていたはずだと見ている。

 今度の大嘗祭に使う麻は、そのためにわざわざ徳島で種を撒かれ栽培されたもの。麻織物を手掛けるのは古代の職能集団「阿波忌部」の末裔だという。「大麻比古神社」を一宮とする徳島(阿波)における「粟」や「麻」、神事とのつながりは今も続いていることを知る。

 本書はこのように、意外な事実が次々と登場して飽きない。地域の「一宮」の背後から古代史のミステリーゾーンが壮大な物語となって浮上する。タイトルに「秘密」とあることに偽りはないといえる。いま観光客などでにぎわっている有名な神社が、必ずしも長い伝統を持つわけではないことなども分かる。ちなみに、「二礼二拍手一礼」など、現在の神社についての私たちの常識の多くは、明治政府によってつくられたものだという。全国のほとんどの神社の御神体も、明治になって「鏡」に変更させられているそうだ。

 本書ではこのほか、富士山本宮浅間大社、奈良の大神神社、大分の宇佐神宮などの解釈も新鮮だった。鹿児島から宮城までほぼ各県の一宮が登場するので、自分にゆかりのところだけ読んでも楽しめる。

 BOOKウォッチでは関連で『日本の神様図鑑』(新星出版社)、『秘境神社めぐり』(ジー・ビー)、『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)、『ニュースが報じない神社の闇――神社本庁・神社をめぐる政治と権力、そして金』(花伝社)、『靖国神社が消える日』(小学館)、『深層日本論』 (新潮新書)、『仏教抹殺』(文春新書)なども紹介している。

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