初詣に神社に行く人は多い。たいがいは有名な神社だ。しかし本書『秘境神社めぐり』(ジー・ビー)はちょっと趣を異にする。主に、「行きにくい」神社を紹介している。よくまあこんな不便なところにつくったものだと感心する神社が多い。パラパラめくっているだけで、修験者のような気分にもなって、実際に行ったかのような達成感と御利益を感じてしまう。
著者の渋谷申博さんは1960年生まれ。『一生に一度は参拝したい全国の神社めぐり』『歴史さんぽ 東京の神社・お寺めぐり』『諸国神社 一宮・二宮・三宮』など多数の神社関係の案内本を出している。仏教関係も多い。宗教研究家として知られる鎌田東二さんや瓜生中さんとの共著もある。
本書には約110の「秘境神社」が登場する。それぞれの由緒や特徴が記され、カラー写真も添えられている。「行きづらさ」(秘境度)や、「体力必要度」などがアイコン表示されている。アクセス方法なども詳細。本邦初の秘境神社ガイド本だという。
本書のポイントは、この「難易度ランク」。どうしてもそこが気になる。行きにくさと体力の総合評価で困難さが際立つのが、北海道の太田神社だ。「日本一危険な場所にある神社」として知る人ぞ知る存在。ロープを使って急勾配を這い上がらなければならない。傾斜が50度を超えるところもあるそうだ。過去には落下した人もいるとか。ヒグマも出没するという話もある。本書には、鎖場をよじ登って本殿がある岩窟に向かう白装束の参拝者の写真が載っている。これでは、ちょっと普通の人には行けない。
地域的に難易度が高いのは、島根県の隠岐島の神社群だ。離島だから当然だろう。ここは秘境神社の密集地。4社が紹介されている。いずれも朝廷が霊威を認めた「名神大社」だという。出雲国でさえ2社しかないというから、隠岐の神社群のスゴさがわかる。鬱蒼とした太古の森に囲まれ、近くには奇怪な形をした巨木もあって霊性が高まる。
このほか本書で気づくのは、「御神体」として「滝」や「岩」を祀るところがいくつもあること。古来、その神々しさに惹かれる人がいて霊場となっている。崇敬者が滝行をしたりするので、神社と滝とは縁が深い。巨木も同じだが、深山幽谷で世俗とは切り離された自然の驚異を目の当たりにすると、たしかに畏れと霊感を感じるに違いない。
「秘境」と銘打ってはいるものの、すでに有名だったり、観光地になっていたりするところもいくつか紹介されている。東京では港区の愛宕神社や赤坂氷川神社などだ。
愛宕神社が鎮座する愛宕山は標高26メートル、天然の山としては23区内では最高峰だという。正面の急な石段は有名だ。裏側の参道あたりは人の気配が乏しく、夕闇が迫ると不気味さが漂う。赤坂氷川神社は都心にあるのに、関東大震災や東京大空襲でも被害を免れたという。霊験がありそうだ。王子稲荷神社は大晦日に諸国の狐が集まるという伝承で有名。奥が深いということで仲間入りしている。
神社はどこでも、日常とはやや隔絶した趣が漂うが、「秘境」となると、さらにパワースポットぶりが増す気がする。簡単に行けるところもあるので、近場のところを探して出かけてみるのも一興だ。
本欄では神社関連で『どこにでも神様』、『靖国神社が消える日』、『奉納百景』など。秘境がらみでは『秘境駅の謎』なども紹介している。
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