正月には初詣でで新年の無事を願い、入試の季節には合格を祈願する。子どもが生まれればお宮参り、七五三詣で成長を祝う。それらのために出かける先は、たいていが地区の氏神、あるいはなにかの縁がある神社だ。ひと口に神社といっても、八幡、天神、稲荷、伊勢、春日、諏訪などさまざま。
本書『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』(幻冬舎)は、日本に八幡神社が最も多い理由の解明に挑むとともに、八幡を含む「最強11神社」の系統や由来を解説しながら、神道が仏教やほかの宗教と比べて特異性が際立つ宗教であること指摘する。
本書では、神社本庁が傘下の全国7万9355社を対象に1990年から7年かけて行った「全国祭祀祭礼総合調査」を引用して、系統別の神社数を紹介。それによると、八幡神社や八幡宮、若宮神社など八幡信仰にかかわるものが最も多く7817社にのぼった。2位は伊勢信仰(神明社、神明宮、皇大神社、伊勢神宮など)だが4425社で、八幡信仰の広がりぶりは圧倒的だ。
3位は天神信仰(天満宮、天神社、北野神社など)で3953社、4位は稲荷信仰(稲荷神社、宇賀神社、稲荷社など)2970社。
八幡神社が他の信仰系に比べて優勢を誇っているのは、歴史的なことが関係あるのではと思われるが、八幡神は「古事記」や「日本書紀」といった日本の神話のなかにも登場しないという。「八幡神は日本神話と無縁な存在であり、神話では語られないまま歴史の舞台に忽然と登場するのである」と、宗教学者である著者も驚くほど特異な存在なのだ。
著者は神道について、その本質は「ない宗教」と述べている。信仰の対象とされている神々は、いわゆる記紀に登場しないものの方が多い。「開祖もいなければ、教典も教義もない。当初は、神社の社殿さえ存在せず、神主という専門的な宗教家もいなかった」のだ。前述の「全国祭祀祭礼総合調査」では、対象の7万9355社のうち祭神が明確に判明したのは4万9084社だった。
出自別に神道の神々をみると3種類に分けられる。一つ目は記紀に登場する神々で、その数は327柱(神は「柱」で数えるという)。二つ目は記紀には登場せず新たに祀られた神々で八幡神はこれに該当する。三番目は偉人などを神としたもので平安時代の菅原道真が信仰の対象になった天神が代表的だ。徳川家康を祀る栃木・日光などの東照宮もこのカテゴリーだ。
八幡神について著者は、鎌倉時代の資料などから、朝鮮半島からの渡来神とみる。八幡総本営・宇佐神宮がある、現在の大分・宇佐周辺に住む渡来人により祀られ、神仏習合の影響もあり、東大寺の大仏建立にかかわって中央に進出。弥勒信仰の弥勒菩薩と合体して、長らく八幡大菩薩とも称されるようになる。また、ある伝承によれば、八幡神は応神天皇の霊とされ、建立された神社に祀られるなどして皇祖神にもなり、武神として武家からの信仰を集め、さらには広く一般の信仰の対象にもなり勧請が盛んになったようだ。
日本は「多神教」の国といわれることを示す意味で「八百万の神」の表現が引き合いに出されるが、まさにその歴史の様子がよく分かる。
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