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人生のいつの3分間をやり直したい?

さようならまでの3分間

 「3分間は決して長くない。だが目的を達するだけなら短くもない」――。

 時間は有限だとわかっていても、つい無為に過ごしてしまうことがある。しかし、本書『さようならまでの3分間』(一迅社、メゾン文庫)の登場人物にそんな漫然とした時間の過ごし方は許されない。

死者の渋滞を解消する「交通整理人」

 16歳の女子高生・幸(さち)は、自宅マンションの屋上から転落死した。白い靄に覆われた世界に立ち尽くしていると、「交通整理人A」を名乗る正体不明の女が現れ「交通整理人F」になるよう告げられる。

 「交通整理人」とは、この世とあの世を結ぶ「ゲート」を整理し、渋滞を解消する人。後悔や未練に足を引っ張られゲートを通れずにいる死者に、3分間のやり直しのチャンスを与える。

 幸自身いまだに死を受け入れられず、この世とあの世のはざまで足踏みしているが、Aの指導のもと4人の死者の「交通整理人」としての任務を遂行していく。

「一章 カップ麺ができる時間」
 仕事のストレスが鬱積していた貴は、大好きなカップ麺を食べることに小言を言う恋人に八つ当たり。今夜は早く帰宅して謝ろうと家を出たが、その通勤途中に事故に遭う。貴が戻るのは、事故の前夜、恋人と喧嘩した3分間。
「二章 十円玉が落ちる時間」
 74歳の和子は、元恋人・古賀と50年ぶりに会う約束をする。約束の前日、和子は美容院の帰りに事故に遭う。和子が戻るのは、古賀との別れを決め、最後の電話をかけた3分間。
「三章 1ラウンドの時間」
 プロボクサー・勝俊はなかなか芽が出ず、これが最後のチャンスと臨んだ試合で脳に致命的なダメージを受ける。勝俊が戻るのは、プロテストに合格した直後、男どもに絡まれる女子高生を見て見ぬふりをして助けられなかった3分間。
「四章 仲直りの時間」
 女子高生・英梨は、夏祭りの日、落雷に遭う。英梨は幸の親友であり、幸の死に関わった人物でもあった。英梨が戻るのは、幸が転落死する直前の3分間。幸の死の真相が明かされる。

過去を変えるのはルール違反?

 ある日突然、自分が死者となり、生前の世界に3分間戻れるとしたら? 後悔の原因を取り除きたい、できることなら死を免れたい――そう願うのは自然だろう。しかし、人生最後の3分間をやり直す際に守るべきルールが3つある。

・何十年でも遡ってやり直せるが、タイムリミットは3分間。

・過去を大きく変更できない。

・死を受け入れられない、やり直したい過去もない場合、「交通整理人」として誰かの「3分間」を見届ける。

 せっかく生前の世界に戻って3分間をやり直せるなら、その後に起きる悲劇を回避しようと考えるが、本書の設定は事実を変えることがNG。登場人物は自分の命が途絶えることを受け入れざるを得ない。代わりに、大切な人のために3分間を生き直そうと必死だ。死後の世界はいかようにも想像できるが、こんな形で大切な人が戻ってきてくれたら、自分が戻れたら、と思う。

 著者の桜井美奈さんは、新潟県在住。電撃小説大賞<大賞>受賞作『きじかくしの庭』で2013年デビュー。主な作品に『嘘が見える僕は、素直な君に恋をした』『塀の中の美容室』(ともに双葉文庫)、『居酒屋すずめ 迷い鳥たちの学校』(文響社)などがある。

  • 書名 さようならまでの3分間
  • 監修・編集・著者名桜井 美奈 著
  • 出版社名株式会社一迅社
  • 出版年月日2019年6月20日
  • 定価本体620円+税
  • 判型・ページ数文庫判・249ページ
  • ISBN9784758091794

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