名画の謎を解いたり、秘密に迫ったりする本が目立つ。それだけ名画には人を引き付ける魅力がある。本書『#名画で学ぶ主婦業 主婦は再びつぶやく』(宝島社)もそうした名画がらみの一冊だ。タイトルに「再び」とあるのはすでに昨夏、『#名画で学ぶ主婦業』を出しているから。つまり今回はその第2弾。あわせて8万部を突破しているそうだ。第3弾も出るにちがいない。
きっかけになったのは、1人の主婦のツイッター。ハンドルネームは「吾輩はたぶん猫」さん。以前から「#名画で学ぶ大学院」というハッシュタグを楽しみながら閲覧していたという美術ファンだ。自分も参加したかったが、大学院を出ていないので気が引けた。いっそのこと自分でやってみようと「#名画で学ぶ主婦業」を立ちあげたところ、次第に評判になり、お仲間も増えた。それらをもとに宝島社が単行本にしたという経緯だ。
投稿されたツイートは、美術史的な学識を踏まえた堅苦しいものではない。あるいは、パノフスキーの図像解釈学のような近年の新しい知見にもとづくものでもない。
例えばダヴィッドの「マラーの死」という作品についてのコメントはこんな感じ。
「『来週月曜日は給食はありませんのでお弁当を持たせてください。』という学校からの手紙を当日朝息子のランドセルから発見。」
これは実体験ではなく、そのとき瞬間的に思い浮かんだインスピレーションだという。このほか、フェルメールの「牛乳を注ぐ女」には、「16時半の家庭訪問『先生これ今日何杯目のお茶なんだろう』」などという率直な感想がつづられている。
もちろん、こうした素人の感想は、突飛さがツイッターの世界で面白がられても、そのままでは出版物として成立しない。したがって単行本では、ちゃんと専門家の解説が付いている。担当しているのは、文星芸術大学教授の田中久美子さん。東京芸大や海外の大学で学び、多数の著書がある。それぞれの美術作品について背景や特徴、影響などを数百字で分かりやすく紹介している。
第2弾『#名画で学ぶ主婦業 主婦は再びつぶやく』ではさらにツイート主が広がり、ますますユニークな感想が目立っている。現在都内で大規模な回顧展が開かれているクリムトの「ユディットⅠ」なども登場する。
「たらいま~(ほろ酔いでママ友 飲み会から深夜帰宅)」と、現実感たっぷりなつぶやきが添えられている。
考えてみれば、難解とされるシュールレアリスムも、「ミシンとコウモリ傘との、解剖台のうえでの偶然の出会い」などという分わかりやすい修辞がもてはやされた。主婦たちと、歴史に残る名画とのツイッター上での出会いもまた、ある種の「シュール」なのかもしれない。
ところでツイッターでの引用とはいえ、名画の著作権はどうなっているのかと思っていたが、書籍版ではたいがいの作品に©が付いていた。
関連して本欄では『いちまいの絵』(集英社新書)、『謎が謎を呼ぶ! 名画の深掘り』(青春出版社)、『名画の本音』(大和書房)なども紹介している。
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