一卵性双生児の双子が本書『フーガはユーガ』(実業之日本社)の主人公だ。常盤優我は、仙台市内のファミレスで、自分の過去を語り始める。双子の弟・風我と優我には特殊な能力が備わっているというのだ。
二人には1年で誕生日の日に限り、2時間おきに互いのいる場所に入れ替わってしまう「瞬間移動」の能力があるという。小学2年生から意識し、それから十数回訪れた能力を二人は有効に活用していた。
この特殊能力をめぐる話に平行して、父親から暴力を受けながら育った幼少時代のこと、クラスでひどいいじめを受けていた同級生を二人でかばったこと、風我の彼女が養父から陰惨な虐待を受けているなど、子どもをめぐる暴力がもう一つの旋律として語られる。
二つのテーマがやがて一つに重なり、思わぬ展開を見せる。
先日、NHKスペシャル「人体Ⅱ遺伝子」で一卵性双生児は、同じ遺伝子を持って生まれるのに、なぜ一方ががんになり、他方ががんにならないのかなど、違いが生まれる理由を説明していた。従来は成育歴や環境の違いによると思われてきたが、さまざまな遺伝子のスイッチが入ったり入らなかったりすることによって違いが生じるということだった。
本書でも優我は勉強が得意、風我は運動が得意と異なるキャラクターとして設定されている。進学校に進んだ優我と中学を出ると働き始めた風我。でも二人は強い絆で結ばれ、しばしば行動をともにする。
伊坂さんは仙台に住みながら執筆を続けている。仙台を舞台にした作品は『ゴールデンスランバー』(山本周五郎賞)など数多い。評者も仙台には相当詳しい方だが、よく知った地名が出てきて安心していると裏切られる。とんでもない事件が起きたり、主人公が思いもよらない手段で逃走したり、現実の仙台という街が魔法にかかったように変貌するのだ。
読者をいい意味で裏切る「伊坂マジック」は本書でも健在だ。冒頭、「瞬間移動」という特殊能力が明かされるが、それで安心していると驚くべき結末を迎える。
こんな相棒がいたらいいだろうな。こんな同級生がいたらいいだろうな。こんな恋人がいたらいいだろうな。こんな特殊能力があったらいいだろうな。子どもたちの鬱屈した声が底に響いているような気がする。伊坂さんの1年ぶりの長篇はちょっと切ない。
本欄では伊坂さんの『ホワイトラビット』(新潮社)を紹介している。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?