読むべき本、見逃していない?

「天皇家」が成立したのは中世になってからだった!?

  • 書名 中世史講義
  • サブタイトル院政期から戦国時代まで
  • 監修・編集・著者名高橋典幸、五味文彦 編
  • 出版社名筑摩書房
  • 出版年月日2019年1月 8日
  • 定価本体860円+税
  • 判型・ページ数新書判・266ページ
  • ISBN9784480071996

 本書『中世史講義』(ちくま新書)は一年まえに出た『古代史講義』(同)の続編といえる。日本中世史について、15人の専門の学者が分野ごとに研究の最新成果と動向を解説している。歴史を学ぶ学生はもちろん、一般読者にも格好の入門書となっている。

『応仁の乱』がベストセラー

 本書は学者1人が1テーマずつ15のテーマについて分担して執筆している。編者の高橋典幸・東京大学大学院人文社会系研究科准教授による「中世史総論」からスタート。「院政期の政治と社会」「日宋・日元貿易の展開」「武家政権の展開」「鎌倉仏教と蒙古襲来」「荘園村落と武士」「朝廷の政治と文化」「南北朝動乱期の社会」「室町文化と宗教」「中世経済を俯瞰する」「室町幕府と明・朝鮮」「室町幕府と天皇・上皇」「戦国の動乱と一揆」「戦国大名の徳政」「中世から近世へ」と続いている。

 日本の中世については、網野史学などの影響もあって近年、関心が高まってきた。また、2017年には『応仁の乱』(呉座勇一著、中公新書)が空前の大ヒットとなり、その後も『陰謀の日本中世史』 (角川新書)などが話題になった。

 ただし、本書は奇をてらうのではなく、政治・経済・外交・社会・文化など十五の重要ポイントを押さえる形で中世史を俯瞰している。「最新の論点が理解できる、待望の通史」というのが売りだ。

「氏」から「イエ」へ

 高橋さんによると、中世と古代との決定的な違いは、「氏」から「イエ」に社会制度の基本が変わったことだという。古代は同族集団の「氏」によって政治的な地位や職掌が決められていたが、それが「イエ」単位になる。つまり「父」から「子」に継承されるようになる。

 それは天皇も同じだった。それまでは皇族の中での地位や立場、摂政・関白殿姻戚関係などで天皇が決められていたが、11世紀後半に登場した白河天皇が自分の子孫に皇位を伝えていくことを決意する。そして、子や孫、曾孫を皇位につけることを確実にするために院政を敷いて政治的実権を握る。つまり皇族のなかでも、天皇の地位を継承するイエ、すなわち天皇家が成立したというのが、高橋さんの明快な解説だ。

 なるほど、今の私たちが当然のごとく受け止めている天皇家の歴史も中世に確立したのかと納得する。教科書で習う中世史よりも、ポイントをしっかり押さえることができる。間もなく元号が変わり、父から子へと天皇の地位が継承されることもあり、タイムリーに知識が深まる。

 それぞれの「講」の最後に「さらに詳しく知るための参考文献」も紹介されている。

次は『近代』か

 気鋭の歴史学者たちの論考を読みつつ、ちょっと別なことも頭をよぎった。これだけの筆者がおれば、もっと重厚な歴史シリーズにすることも可能だったのではないかと。たとえば「古代」については、1980年代に出た『日本の古代』15巻のような企画だ。

 そんなことを考えているうちに、二つのことが思い浮かんだ。中世史の世界は一見賑やかに見えるが、実は網野善彦、石井進の両巨頭を亡くし、「祝祭のあと」なのだという。出版社の編集者からも、「現状では大きな企画は立てられない」と言われているという。これは歴史学者の本郷和人さんが書いていた。

 もう一つは出版不況。1990年代後半から出版業界の売れ行きは下り坂。先の見えない不況下にある。無理な企画は立てられない。あまりに大仕掛けなシリーズを始めても立ちいかなくなる。本が売れない、買われないというのは結局のところ、本を読む人が減っているということでもある。読むのは新書どまり、という人が大半になっている。

 『古代』『中世』と続いたので、おそらく次は『近世』が出るのだろう。もはや本格版シリーズは難しい時代になったということをかみしめつつ、手に取ることになりそうだ。

 本欄では関連で『飢餓と戦争の戦国を行く』(吉川弘文館)、『武士の日本史』(岩波新書)、『東大教授がおしえるやばい日本史』(ダイヤモンド社)、『蒙古襲来と神風』(中公新書)なども紹介している。

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