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蒙古襲来で「神風」は吹かなかった?

蒙古襲来と神風

 日本史本のブームが続いている。背景には新資料や意欲的な研究でなどで通説の見直しが進んでいることがある。

 本書『蒙古襲来と神風』もその一冊だ。「中世の対外戦争の真実」という副題がついている。「元寇」は「神風」で撃退したという長く信じられてきたストーリーに疑問を呈し、修正を促している。

日本危うし、危機一髪

 著者のくまもと文学・歴史館館長の服部英雄さんはすでに2014年、豊富な資料をもとに500ページを超える大著『蒙古襲来』(山川出版社)を出版、旧来説の再検討に迫って注目されていた。今回は新書本ということで、より一般読者にもわかりやすく説いている。

 蒙古襲来についての通説は1274(文永11)年、元の大群が博多湾まで押し寄せたが、突然の暴風で退却した、1281(弘安4)年に再び襲ってきたが、これまた暴風で敵船の多数が沈んで日本が勝った、とされてきた。いずれも日本危うし、危機一髪というところで「神風」が吹いたというのが常識だった。今でもそう書いている教科書が複数あるという。

 服部さんは、そうした通説の根拠となった諸史料の解釈を批判的に検証。戦闘に参加した御家人・竹崎季長が描かせた「蒙古襲来絵詞」ほか、良質な同時代史料から真相に迫る。そして、そもそも文永の襲来では嵐が来ていないこと、弘安の襲来ではたしかに嵐は吹いたが、合戦はその後も続き、相手が劣勢になったから撤退したとみる。

 実際の戦闘の詳しい様子はどうだったか、なぜ神風史観が形作られていったか、などについても説明されている。

現在を問いなおすことにも通じる

 教科書に書かれた歴史というのは、とうの昔に評価が定まった事実が列挙されたものと思いがちだ。ところがこの数年に限っても、長く足利尊氏像として紹介されてきた「騎馬武者像」は違うのではないか、など「へぇー、そうだったの」という歴史のトリビアが続いている。

 そもそも20世紀に入ってフランスではアナール学派が、民衆の生活文化や社会史に力点を置いて時代をとらえなおす新しい歴史の見方を提唱。それらを視野に入れた網野善彦さんの一連の著作は歴史家以外にもファンを広げ、宮崎駿さんの「もののけ姫」にも影響を与えたとされる。近年は、文献史料の再点検はもちろん、絵巻物なども含めて多角的に歴史を見つめなおそうとする動きが続いている。

 本書も、絵図の「蒙古襲来絵詞」に着目し、定説に挑んでいる。著者のエネルギーのもとになっているのは戦前、「神風神話」が盛んに宣伝されて無謀な太平洋戦争に突き進んだことへの苛立ちだ。13世紀の蒙古襲来についての「定説」はたしかに20世紀の日本に大きな影響を与えた。なぜ「神風神話」という「非科学的な歴史観」がつくられ、支持されたのか・・・。最終章では「特攻隊の真実」にまで踏み込み、美談で飾られることが多い特攻隊について、本当にそうなのか、それでいいのかと疑念を記す。

 本書は蒙古襲来を題材に、いつの時代であっても「通説」「定説」とされていることが本当に正しいのかどうか、改めて疑ってみることを鋭く迫る。その意味では、単に過去の再検証にとどまらず、現在を問いなおすことにも通じる一冊である。

  • 書名 蒙古襲来と神風
  • サブタイトル中世の対外戦争の真実
  • 監修・編集・著者名服部英雄 著
  • 出版社名中央公論新社
  • 出版年月日2017年11月18日
  • 定価本体860円+税
  • 判型・ページ数新書・246ページ
  • ISBN9784121024619
 

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