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「帰化人=渡来人」ではなかった!

  • 書名 渡来人と帰化人
  • 監修・編集・著者名田中史生 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2019年2月22日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・320ページ
  • ISBN9784047036321

 かつては「帰化人」といわれていた。近年は「渡来人」と呼ばれることが多い。本書『渡来人と帰化人』(角川選書)はこの半世紀ほどの間に、大きく名称替えされた渡来の人びとについて論じたものだ。多数の先行書に触れながら、古代史の重要な存在について、最新の研究成果や見方を伝えている。「帰化人=渡来人」ではないという一点を知るだけでも勉強になる。

教科書で「渡来人」が使われるのは70年代後半から

 著者の田中史生さんは1967年生まれ、早稲田大学文学部を出て、国学院大学博士課程を修了。島根県文化財課主事、関東学院大学教授を経て、現在は早稲田大学教授。『越境の古代史』 (角川ソフィア文庫)、『国際交易の古代列島』(角川選書)、『倭国と渡来人―交錯する「内」と「外」』(吉川弘文館)など、古代の国際関係についての著書が多い。

 田中さんが市民講座などに呼ばれて話すと、しばしば質問を受けるという。「なぜ現在は帰化人ではなく、渡来人というのですか」。実際のところ、帰化人ではなく渡来人の語を使うべきだという考え方は1970年代から急速に広まった。先ごろ亡くなった古代史の泰斗、京都大学の上田正昭氏らが主唱した。それ以前に学校教育で習った世代には「帰化人」の方になじみがある。教科書で「渡来人」が使われるようになったのは70年代後半以降のことだという。

 「帰化」というからには、受け入れる側に「国」という制度や体制が整っていなければならない。そのことぐらいは、だれでも容易に推測が付く。田中さんも現在の国籍法の「日本国民でない者は、帰化によって、日本の国籍を取得することができる」という規定を引きながら、「帰化」は、「国民」があって初めて成り立つ概念だと指摘する。

古代社会の実相がかえって見えなくなる

 古代における東アジアは、「中華思想」「華夷思想」にとらわれていた。中華の文明圏が「化内」で、外側の未開の地が「化外」。そこに住む「化外人」が中華の王の民となることを自ら望むと、これを「帰化」と呼んだ。つまり古代における「帰化」は、明確な政治的価値・思想を帯びた語だった。古代の日本もその考え方を取り入れた。したがって、古代における帰化人は、「倭」や「日本」がそうした思想や体制を持った段階で、初めて存在することになる。

 田中さん自身は、「帰化人をただ渡来人の語に置き換えるだけでは、古代社会の実相がかえって見えなくなる」「だからといって渡来人よりもむしろ帰化人を使うべきだとも考えていない」「両者はそれぞれ異なる意味を持つ歴史用語として、使い分けるべき」という考えに立つ。

 本書では「『帰化人』か『渡来人』か」、「中国大陸から倭人の国へ」、「大王と地域首長と渡来人・渡来文化」、「支配思想・支配方式の渡来文化」、「帰化人誕生の国際環境」、「渡来系氏族の変質と『帰化』の転換」の各章にわけて論じている。

帰化したはずなのに帰国した人も

 「帰化」という、かつて普通に用いられた用語は「『日本書紀』などの古代史料に出て来るものだという。8世紀初頭に成立した『日本書紀』は、古代国家として日本が成立した歴史を公式的に説いているものだから、「帰化」を使っていることに合点がいく。一方で『古事記』や『風土記』では「渡来」あるいは同じ意味で「度来」だったそうだ。

 ただし『書紀』の中でいったん「帰化」したとされている人物も、何年か後には本国に「帰国」するケースもあった。聖徳太子の師として有名な高句麗僧の慧慈は推古3年(595年)に帰化したはずだが、推古23年(615年)には「国に帰る」と記されている。『書紀』成立当時の「帰化」という用語が、現在とはやや違うニュアンスだったことがうかがえる。

 本書では「帰化人」「渡来人」を巡る長年の論争や現況のほか、「邪馬台国時代の渡来人」「渡来系氏族の萌芽」「留学する渡来系氏族」「官営工房と渡来技術者」「官人養成と渡来人」など個別の項目も興味深い。

 平安時代に京や畿内に住んでいた氏族の名前を記した『新撰姓氏録』(815年)によると、全体の30%が中国や朝鮮をルーツとする人たちだったという。今日、近隣諸国との確執が強まっているが、渡来人・帰化人について冷静に書かれた本書を読むことで、改めて日本と東アジアの関係史を見つめ直すことができそうだ。

 関連で本欄では『日本人の名前の歴史』(吉川弘文館)、『古代‐近世「地名」来歴集』(アーツアンドクラフツ)、『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)、『古代韓半島と倭国』 (中公叢書)、『戦争の日本古代史』(講談社現代新書)なども紹介している。

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