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佐藤愛子さん実体験を綴る、信じがたいけど本当の話

冥界からの電話

 佐藤愛子さんの新刊『冥界からの電話』(新潮社)のタイトルを見て、てっきり小説かと思ったら「著者が実体験から伝える渾身のメッセージ」と帯にある。死者からの電話、しかも実体験...背筋が寒くなったが、どうしても気になり手に取った。

 本書の冒頭一行目、自分が勘違いしていたことに気づいた。冥界からの電話を受けたのは佐藤さんではなく、佐藤さんの古くからの友人である小児科医・高林先生だという。高林先生が実体験を佐藤さんに話し、二人で「一体何なんだろう、これは」と言い合う。佐藤さんは、高林先生から聞いた話を脚色することなく事実のみを淡々と書き、加えて、自身の霊的体験をふまえた死後の世界への考え方を記している。

 佐藤さんは最初に「この記述はすべて事実ですが、登場人物の名前と地名の一部は仮の名にしました。内容にはいささかの虚構も誇張もありません」と断っている。「それは二〇一二年の春から現在までつづき、ここで終るのか、まだつづくのか、終るかも知れないし、終らないかも知れない。実際に終ったかと思っていると忘れた頃にまたつづくという状況にあり、筆者はとりとめもなく行き先のわからない旅路に出たような、不安定な気持で筆を執った次第です」と、佐藤さん自身、この捉えどころのない事実に戸惑う様子が伝わってくる。

 高林先生は、高校生を対象に「十代の夢」のタイトルで講演をした。一ヵ月後、高林先生の話に感動したという女子生徒・ひふみから手紙を受け取る。それから高林先生とひふみは、時々電話で話す関係になる。高林先生から影響を受け、医師を目指すことにしたひふみは、猛勉強の末に医学部に合格。高林先生は合格祝いにご馳走をしようと、ひふみと待ち合わせをするのだが、ひふみは現れなかった。

 後日、高林先生のもとにひふみの兄を名乗る人物から電話があり、ひふみは待ち合わせの日に事故で亡くなったと知らされる。その後も兄から電話があり、あるとき「バチーッと木の裂けるような鋭い音」がして部屋の照明が消え、兄の声は途絶えた。聞こえてきたのは「先生......ひふみです」という、生前と変わらないひふみの声だった――。もうここからは、一気読みせざるを得ない。

 佐藤さんは最後に「この記述に結論はないのです。...多分、実際にあったことだから書いたのです。書きたくなった、書かずにいられなくなったのです。書けば何か見えてくるものがあるかもしれないと思ったのです。書き終りましたが、何もわかりません」と、執筆した感想を記している。読みながら湧いてきた数々の疑問が解かれることはなかったが、結論がないということがかえって、本書の話は虚構ではなく真実であることを証明していると思った。死後の世界を考えるうえで、特に興味深かった箇所を引用したい。

 「大切なことはただ一つ死者それぞれの魂が持っている波動の高低であること。波動が高ければ高い所へ上る。低ければ低い所へ行く。『行かされる』のではなく、自己の波動にふさわしい所へ、自ら、自然に赴くらしい。誰から教えられたということもなく、...そう考えるようになっています」

 佐藤愛子さんは1923年、大阪市生まれ。小説家・佐藤紅緑を父に、詩人・サトウハチローを兄に持つ。50年「文藝首都」同人となり本格的に創作活動を始める。69年『戦いすんで日が暮れて』で直木賞、79年『幸福の絵』で女流文学賞、2000年『血脈』の完成により菊池寛賞、15年『晩鐘』で紫式部文学賞を受賞。16年『九十歳。何がめでたい』が大ベストセラーに。17年に旭日小綬章を受章。

BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 冥界からの電話
  • 監修・編集・著者名佐藤 愛子 著
  • 出版社名株式会社新潮社
  • 出版年月日2018年11月30日
  • 定価本体1200円+税
  • 判型・ページ数四六判変型・182ページ
  • ISBN9784103309055
 

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