書店が減り続けている。2018年のデータでは全国で約1万2千店。10年前に比べると3割減。20年前に比べると、ほぼ半減している。
本書『高円寺文庫センター物語』(秀和システム)も消えた本屋さんの話だ。ただし、普通の書店ではない。「日本一のサブカル本屋」の物語だ。
巻末の年表によると、「高円寺文庫センター」は1982年に中央線の高円寺で開店。89年に同駅前に移った。そこで長く店長をつとめた「のがわ★かずお」さんが本書の著者だ。出版社による紹介文が、本書のすべてを言いつくしている。
「あの忌野清志郎が『日本一ROCKな書店』と激賞した、高円寺のかたすみにある小さな書店。たった25坪の書店に、相原コージ、高田渡、町田忍、ダンカン、みうらじゅん、森本レオ、遠藤ミチロウ、山本直樹、中島らも、杉作J太郎ら日本サブカル界のキラ星のような才能が集い、お客さんと共に盛り立てました。本書は、高円寺文庫センターを日本一のサブカル書店に育てあげた元店長が語る、みんなを笑顔にした伝説の本屋の物語です」
これらの有名人が、どうやってこの本屋さんを盛り立てたかというと、サイン会や握手会だ。忌野清志郎は3回も登場した。ユニークな書店ということで、テレビ朝日「トゥナイト」、テレビ東京「アド街ック天国」などのテレビ取材はもちろん、「ダカーポ」などの雑誌、毎日新聞や朝日新聞など全国紙でも取り上げられた。
店長だった「のがわ」さんは1951年生まれ。団塊のすぐ下の世代だ。神保町の書店「書泉」を経て、この店に。温泉とプラモデルと映画をこよなく愛する妖怪マニアだという。書泉では組合運動に深くかかわり、労働争議の当事者だったようだから、ヤワではない。
本書は、全体として仲間たちとの会話調でつづられている。例えば、忌野清志郎さんに来てもらった握手会。誰が言いだして、どうやって実現したか、まるで録画フィルムでも見るかのように、関係者のやり取りが再現されている。
サイン会の後は皆で撮る記念写真がお約束。そうした写真も多数収められている。実際にサイン会に出かけた人や、この店を利用していた人が本書を手に取ると、懐かしい思い出がよみがえることだろう。
高円寺というのは、ちょっとユニークな町として、しばしばタウン雑誌などで取り上げられている。一言でいえば、昭和の匂いが、かろうじて残っているレトロタウン。ねじめ正一さんの直木賞小説『高円寺純情商店街』はあまりにも有名だ。夏になると、阿波踊りで盛り上がり、ガード下には沖縄酒場が連なる。なぜか古着屋がやたらに多い。かつては自然発生的にデモが起きたりしていたというが、最近はどうなのだろうか。
地方から東京に出てきて、何者かになろうとしているが、まだ自分探し中の若者が集まる街――高円寺にはそんなイメージがある。だから、この町は、「未完」の人にやさしい感じがする。「高円寺文庫センター」もそんな書店だったのだろう。村上春樹の『1Q84』は、主人公が「高円寺」に住む設定だ。ひょっとして「高円寺文庫センター」に出入りしていたかも。
残念ながら、店は2010年に閉店したそうだ。高円寺も、やや窮屈な町になったということなのか。
本欄では書店関係の本として、『書店に恋して――リブロ池袋本店とわたし』(晶文社)、『本屋の新井』(講談社)、『「本屋」は死なない』(新潮社)なども紹介している。
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