本書『安倍政治 100のファクトチェック』(集英社)はまったく新機軸の本だ。この数年の政治家や官僚たちの国会などでの発言が、「ファクト」かどうかを再確認している。これまで「問題発言」は、一時的にマスコミで問題になっても、その時限りで流されてきた。それらを改めて振り返り、正誤をリストにしている。それが100もある。後世にも残せる貴重な記録だ。ジャーナリズムとして必要な仕事と言える。
そしてもう一つ、本書は東京新聞の記者と朝日新聞の記者の共著。本来はライバル関係の記者が、こうした形でタッグを組むのは異例だ。
著者の一人、望月衣塑子さんは東京新聞記者。官房長官などで手厳しい質問をする記者として有名になった。昨年『新聞記者』(集英社)も出している。共著者の南彰さんは朝日新聞記者。現在は新聞労連委員長だ。望月さんの『新聞記者』では、記者会見の時に、望月さんの質問を支援してくれる数少ない大手メディア記者として登場していた。そんなつながりもあって、今回の共著となったのだろう。
本書のタイトルになっている「ファクトチェック」とは、政治家や官僚の公式発言が、事実かどうかを評価するものだ。トランプ政権下の米国メディアで盛んになった。本書では近年の安倍政権の様々な発言を100に分類し、○、△、×で判定している。
本書で目立つのは、当然ながら安倍首相だ。○のケースもあるが、残念ながら△や×が目立つ。何しろ党首討論会で「フェイク」を語っている。2017年10月、「朝日新聞は・・・八田(達夫・国家戦略特区ワーキンググループ座長)さんの報道もしておられない」などと述べたうえで、「国民の皆さん、新聞をよくファクトチェックしていただきたい」と呼びかけた。つまり特定マスコミを名指しして本当のことを報じていないと語った。これは何度もニュース映像で流れたそうだが、本書によれば×。朝日は八田氏の発言を10回以上も紹介していた。
本書は「第一章 森友・加計学園問題」、「第二章 アベノミクス」、「第三章 安全保障法制」、「第四章 憲法・人権・民主主義」、「第五章 官房長官会見」に分かれている。
「森友・加計学園問題」では35のチェック項目が並ぶが、○は一つもない。「交渉記録を破棄した」という麻生財務大臣や佐川理財局長の答弁は54回に及ぶが、すべて虚偽だった。関係文書がマスコミ報道された時に、菅官房長官が「怪文書みたいな文書じゃないでしょうか」とコメントしたことも記憶に新しいが、これも×。
望月さんは安倍政権に特徴的なのは、首相や閣僚によるメディアへの敵対的な発言が多いことだという。また、南さんは、政権側に断定的な主張が多いことも指摘している。昔なら政権を揺るがし、進退を問われるような虚偽発言でも、国民もメディアもだんだん慣れっこになっている。
南さんによると、朝日新聞は16年秋から「ファクトチェック」を導入しているという。一方で、南さんは取材する側の自分たちも記事や記者会見で時折、事実関係を誤ることがあるということも認めている。「この本をきっかけに、事実に向き合うという基本に立ち返り、一体何が正確な情報かわからないという真の『国難』に陥らせない取り組みが広がることを願っている」としている。
本書では日本における各種ファクトチェックの取り組みについても紹介されている。印税の一部はそうした団体に寄付される予定だという。
本欄で関連書として『フェイクニュース』『権力と新聞の大問題』『武器としての情報公開』なども紹介済みだ。
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