通勤時間帯を少し過ぎたあたりに電車に乗ると、帽子をかぶりリュックを背負った男性をよく見かける。女性は二人連れやグループが多いが、男性はだいたい一人。退職後の男性が少し遠出するといった風情だ。
本書『おとなの「ひとり休日」行動計画』(WAVE出版)は、首都圏を対象に気軽に日帰りできるコースを20紹介したガイドブックだ。
著者のカベルナリア吉田さんは、元読売新聞記者のライターで、沖縄や島を中心に足で歩く紀行文を数多く発表している。以前、吉田さんが書いた沖縄の本が面白かったので本書を読んでみると、一味違った休日プランが提案されていた。
吉田さんは、コーヒーショップやスーパーのフードコート、デパートのベンチ、図書館でぼーっと時間をつぶしているだけに見える男性を見かけるという。「もったいなくはないだろうか」「時間をもっと有意義に、粋に過ごそう」と「思い立ったらすぐ出かけられる、東京近郊散策のテーマ」20本を用意したという。
いくつか紹介すると...... ・路線バスで思いっきり遠くに行ってみる 奥多摩駅発鴨沢西行、峰谷行、小菅行 ・歴史を偲び、まぼろしの廃線跡を歩く 中島飛行機武蔵製作所・引き込み線跡 ・人工で造られた、東京の水辺・運河を回る 小名木川の水辺 ・文豪を気取って、小エロ文学散歩 『濹東綺譚』の舞台・墨田区東向島 ・土地勘のない小さな駅前の居酒屋で飲む 京浜急行鮫洲駅前「まつり」
軍需工場だった中島飛行機武蔵製作所の跡地に東京スタジアム・グリーンパーク野球場ができると、三鷹駅と結ぶ路線が敷き直された。その廃線跡が遊歩道になっている。吉田さんは、廃線跡をたどりながら、そこにあった時代を感じ、歴史を知ろうと呼びかける。
『濹東綺譚』の舞台・墨田区東向島を評者も歩いたことがある。永井荷風が描いたころは、迷路状に細い道がひろがり、あやしげな銘酒屋が500軒もあったというが、いまその面影はない。ただ、道はあらぬ方向に分かれ、どこを歩いているのか判らなくなることも。
本書では「上級者向き荒業編」として、長野県駒ケ根市でソースかつ丼を食べる日帰り旅と「0泊1日の弾丸で行く伊豆大島への日帰り旅」も紹介している。ジェットフォイルを使えば、竹芝桟橋を午前7時55分に出発して午後4時25分に帰るのも可能だという。島での滞在時間は5時間。大島に日帰りできるというのは驚きだ。
今はスマートフォンの地図アプリという心づよい散歩の味方もある。特にテーマをもたなくても、ぶらりと散策に出てみたらどうだろうか。そこでよさげな居酒屋があれば、吉田類さんを気取って一杯やるもよし。東京には無限に近いほど魅力的なスポットがある。家でごろごろしているうちに貴重な時間は消えてゆく。本書を読み、自戒の念を持った。
本欄では、東京の多摩地区にスポットを当てた『東京23区外さんぽ』も紹介したばかりだ。
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