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店員は5匹の猫だよ...保護猫と親しむ「最高の本屋」

夢の猫本屋ができるまで

 数年前から続く猫ブームは、ペットを使ったインスタ映えの流行などにあおられてなお続いているという。東京都世田谷区に昨年夏オープンした書店「Cat's Meow Books(キャッツミャウブックス)」は、猫に特化した専門書店。店員にも猫を配するほど念入りだ。だが、ブームに安易に便乗したものでないという。

 本書『夢の猫本屋ができるまで』(ホーム社発行、集英社発売)は、タイトルが示す通り、同店の計画の段階からオープンまでを描いたもの。「夢」にはさまざまな意味が込められているのだが、メルヘン的な響きとはうらはらに、困難さが増している書店経営に敢えて挑む様子はハードボイルド感を漂わせ、保護猫の問題とのリンクは社会派ノンフィクションの趣でもある。

杞憂だった...大丈夫か?

 著者の井上理津子さんは新聞の連載でこの5年間ほど、首都圏の新刊書店、古書店合わせて250軒ほどを取材して歩き、書店や図書館についての書籍を数冊上梓している。そうした仕事のキャリアから、この「キャッツミャウブックス」の取材となったものだが、本と猫のマッチングだけが拠りどころの店に見え、内心ではさざ波がたっていたらしい。

 猫の本を専門にするビジネスの前例にも心当たりはあったが、いずれも一般書店の店内ショップ。しかも、それらの立地といえば、東京・神保町の「本の街」の真ん中だ。「キャッツミャウブックス」があるのは世田谷の住宅街。「喫茶店の1軒もパン屋さんの1軒もない駅前から、車1台通れるかどうかの小道をゆっくり歩いたところ」にひっそりたたずむ10坪ほどの白い家がそれだ。

 経営するのは「協力」として名を連ねる安村正也さん。「初めて本屋をやる」「出版関係の勤務経験なし」と聞いて、内心のさざ波は増幅気配。ところが、取材通いを重ねるうちに「かなり『大丈夫』なのだと分かってきた」という。

 安村さんは昨年、49歳のときからこの店を始めた。「ビールと本が大好きで、ここは、自分が心地よい空間なんです」。店にはカフェを併設しており、コーヒーやビールを飲みながらゆっくりと本を選ぶことができる。店員の猫は5匹。店内ではすり寄ってきて「接客」することもある。

 「安村さんの思いにシンパシィを感じている人たちがぽつりぽつりとやってくる。ときにはどっと集まる」のをみて、著者は「猫本屋さんは、デメリットをメリットに変える力を持っているようだ」と感心しきりだ。

ビブリオバトルが趣味

 安村さんは2010年ごろから本屋を開こうと考えており、具体的なプランを練り始めたのは、開店する1年半前という。本と猫とビールが好きで、そられに囲まれて暮らしたいと漠然と思っていたが、ただ好きなだけ、思っているだけで実現するわけがない。いずれに対する愛着も半端じゃなかったことから実現にまでいたったものだ。

 猫との縁は、親猫に子育てを拒否された子猫を保護して飼い始めたことから。3匹いたうちの1匹だけをなんとか救うことができ、猫を飼っていた岡山の実家を離れて以来飢えていた「猫欲」が満たされ、以来、保護猫に強いこだわりを持つようになった。

 本好きは、それが高じて、「知的書評合戦」と呼ばれるビブリオバトルを趣味にするほどなのだが、それがきっかけとなり「本屋入門」や「これからの本屋講座」など、書店などが開設している講座を受講。出版業界の流通をめぐり重要な位置を占める「取次」やほかの仕組みについても学習を重ねた。

収益の一部は保護猫団体に寄付

 本書ではまた、安村さんの本気のリアルを示すため、保護猫をめぐる取り組み、クラウドファンディングなどの資金調達、店の場所探し、新刊や古本の猫の専門書の仕入れについてもしっかり取材し明らかにする。また「夢に賭ける」的な一か八かの行動は一切なく、妻の協力も得て、勤めをやめず「パラレルキャリア」の道を選んだことは、読む側、とくに、安村さんのことを参考にしようという人たちは安心して読めるのではなかろうか。

 「店員」の猫5匹はいずれも保護猫。猫の保護活動はボランティアが主で、フードや病院、そのほかの世話について寄付を頼りにしているが、最近では多頭飼いやブリーダービジネスの崩壊で、保護の対象が拡大傾向にあり、その活動も自立の道を模索する動きが活発化しているという。安村さんは、ビブリオバトルの参加が元となって、クラウドファンディングで保護活動に出資。それをきっかけに、保護猫団体と縁ができ、店員猫の派遣元に。収益の一部は保護猫団体に寄付している。書店名の「Cat's Meow」は英語で「素晴らしいもの、最高のもの」の意味。

 近年は、猫関連の出版物は多いが、当欄ではこれまでに「猫はこうして地球を征服した」「猫神さま日和」「通い猫アルフィーの奇跡」を紹介している。

  • 書名 夢の猫本屋ができるまで
  • サブタイトルCat's Meow Books
  • 監修・編集・著者名井上 理津子 著、安村 正也 協力
  • 出版社名ホーム社発行、集英社発売
  • 出版年月日2018年7月 2日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・260ページ
  • ISBN9784834253207
 

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