読むべき本、見逃していない?

現代の「百獣の王」はライオンではない

  • 書名 猫はこうして地球を征服した
  • サブタイトル人の脳からインターネット、生態系まで
  • 監修・編集・著者名アビゲイル・タッカー著、西田美緒子訳
  • 出版社名インターシフト
  • 出版年月日2017年12月27日
  • 定価本体2200円+税
  • 判型・ページ数B6判・272ページ
  • ISBN9784772695589

 日本では数年前から空前のネコブームといわれ、2017年12月にペットフード協会が発表した「全国犬猫飼育実態調査」の結果では、ニャンと、ブームを裏付けるように、ネコの飼育頭数が初めてイヌを上回った。実はこのネコブーム、日本だけで時限的に起きている現象ではなく、世界規模でかなり以前からうねりをみせているものらしい。米ベストセラーになり17年12月に日本で訳書が刊行された「猫はこうして地球を征服した」では、ネコは現代では、人間に愛されている動物になったという意味で、新たな「百獣の王」に登りつめたと指摘する。

 ペットとしてイヌに競り勝ち、インターネットの専門サイトは数多く、SNSではインスタ映えがもてはやされるネコ。だが、警察ネコや盲導ネコ、介助ネコなどの養成や実用化はまず考えられず、イヌのように人間にとって役に立つ存在とはいえない。それどころか、われわれの祖先の時代にはネコは長らく人類を捕食する天敵だったという。本書では、そんなネコがどうやって人間社会に親しむようになり、われわれに愛されるようになったかの過程をさぐりネコブームの真相に迫っている。

「リビングルームのライオン」

 著者のアビゲイル・タッカーさんは、米スミソニアン協会が発行する「スミソニアン」誌の記者。スミソニアン協会は、首都ワシントン中心部にあるナショナル・モールに並ぶ産業や芸術、自然史などの博物館・研究機関の施設群である「スミソニアン博物館」を運営している。本書には、ネコやほかの動物について同博物館の専門家らにも取材したリポートも多く含まれている。

 その一つによると、かつて「百獣の王」と呼ばれたネコ科の猛獣ライオンは、今では「アフリカのいくつかの自然保護区とインドのたった一つの森にすがりつくようにして、わずか2万頭が人間の保護資金と慈悲にたよって生き残っているだけ」になってしまった。

 一方、新「百獣の王」の繁栄ぶりはこうだ。

 「世界のイエネコの個体数は6億を超え、さらに増え続けている。米国内だけで1日あたりに生まれる数は野生ライオンの合計数より多く、ニューヨーク市で毎年春に生まれる子ネコの数は、野生で生息するトラの数に匹敵する。全世界のイエネコの数は、人間の愛情を二分するライバルのイヌの数を超え、最大3倍にまで達しておりおそらくその差は広がっていくだろう」。

 本書の原題は「The Lion in The Living Room(リビングルームのライオン)」。サブタイトルは「How House Cats Tamed Us and Took Over the World(イエネコはどうやって人間を手なずけ世界を制したのか)」。人間はイヌについては、人間の側から働きかけて労働の助手などとして飼い慣らしてきた歴史があり、その間にイヌは体型や性質ばかりか遺伝子もさまざまに変化を重ね、人間の必要に応じて役に立ってきている。それとは対照的に、ネコは人間の定住化に応じて一部がそのなかに入り込み徐々に人間を「飼い慣らしてきた」という。だからイエネコは祖先の野生種と体型はほとんど変わらず遺伝子にも変化なく、ライオンやトラなどと基本的なつくりは同じ。本書の原題がイエネコを「リビングルームのライオン」と呼ぶ理由の一部でもある。

人間の泣き声まねて「ニャー」

 ではなぜ人間がネコに飼い慣らされてしまったのか。

 本書が明かすその秘密の一つは「とても特別で強力な」イエネコの身体的特徴。オーストリアの民俗学者であり動物学者であるコンラート・ローレンツによるとそれは「ベビー・リリーサー」といい「私たちに人間の子どもを思い出させてホルモン分泌の連鎖反応を起こす」機能を持つ。

 イエネコの目の大きさや位置は人間に似ており、さらに優しそうに見える丸顔、小さくて上を向いた鼻が何かをアピールしているようであり、体重は人間の新生児と同じくらい...。「ネコの特徴は可愛らしさが完璧に集まったものでありながら、かつて私たちの祖先を大量に殺していた動物そのままの見かけを維持している。ネコの顔は究極の捕食者の顔であり、子どもの顔であり、その組み合わせに魅惑的な緊張を保っているのだ」と著者は説明する。

 鳴き声も、ネコが進化の過程で身に付けた人たらしの術。「ニャーという鳴き方は人間の赤ん坊の泣き声を思わせ、ネコが長い期間に人の泣き声をより正確にまねるように発声の調子を変えてきたと、いくつかの研究は指摘している」。

 小首をかしげ、にゃあと発して甘えるようにすり寄るネコを人間は無下にはできず、よしよしとかわいがり、食べ物を与えて共存するうち「おネコさま」状態になったりするのだが、すべてのネコがペットとして存在しているわけではない。本書では、生態系を乱す存在として駆除の対象になっている現場からの報告も寄せられるなど、ネコがわれわれが知らないうちに有害で危険なものになる可能性にも触れている。また次世代のネコの姿などについても見通し、将来はネコに、人間に飼い慣らさられた特徴が現れるだろうという。

 ネコ好きの人も、ネコ嫌いの人も、ネコに対する見方が変わる一冊。

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