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足立区のイメージがぐんぐん良くなっているワケ

自治体不祥事における危機管理広報

 役所や企業が不祥事で頭を下げる光景がもはやおなじみになっている。本書『自治体不祥事における危機管理広報――管理職の心得と記者会見までの対応』(第一法規株式会社)はこの方面のエキスパート、田中正博・田中危機管理広報事務所社長による最新刊。類書をこの10数年、何冊も出版しており、業界ではおなじみの人だ。

財務省は反面教師

 冒頭、財務省の森友学園問題に触れている。マスコミでさんざん報じられた決裁文書の書き換えとその後のゴタゴタ。「不祥事発生時の組織対応力を問われる反面教師」だったと書いている。つまり、失敗例の代表ということだ。長い公務員人生で自分が不祥事の当事者になったり、遭遇したりする確率は極めて低い。度々あっては生き残れない。日本中の公務員の頂点に立つ財務省でさえ、あの通り。ふだんからしっかり構えをしていないと対処できないというわけだ。

 本書では、「こんなとき、どうする」という章で、いくつかの事例が記されている。

・イベント会場の下り階段で来場者がつまずき、市民数名が折り重なる事故が起きた
・部下の誰かが、仲間の誹謗中傷やマイナス情報をブログに書いていることが判明
・国民健康保険課の職員が、DV被害者の住所を加害者に伝えてしまった
・「暴力団員に弱みを握られた部下Aが、取引金額を巧妙に搾取している」という内部告発の手紙が舞い込んだ
・部下が紛失した重要資料を「拾った」という男から、脅しめいた電話があなたにかかってきた

 さてどうするか。それぞれについて「対応のポイント」という欄が設けられている。「イベント会場の事故」の例では、「現場への指示事項」が14項目並び、さらに「役所内でとるべき対応」が5項目、外部からの電話に対する回答例も添えられている。

不祥事を隠す風土があった

 田中氏は電通PRセンター(現電通パブリックリレーションズ)で常務、専務を歴任後、危機管理広報事務所を立ち上げ、緊急記者会見、クレーム対応、欠陥商品問題、訴訟問題、企業危機など多数の危機管理コンサルティングを担当してきた。これまでに『実践 自治体の危機管理』『実践 危機管理広報』などの著書もある。

 本書には東京都足立区の近藤やよい区長への特別インタビューが掲載されている。11年前に就任し、その直後から、管理職を対象とした危機管理研修を続けているという。その内容がなかなか興味深い。「危機管理」ということをキーワードに役所改革に取り組んだことがよくわかる。

 就任当時、管理職の間では「不祥事は隠す」という風土が残っていたという。「どうやって表に出さないようにするか、それが腕の見せどころ」「ほっかむりして黙ってりゃいいんだよ」という隠蔽体質を壊すのに苦労したそうだ。「足立区というのは表裏なく透明性を高める組織」ということをマスコミに分かってもらい、評価されることが結果的に区民の信頼にもつながると考えて、新しい風土づくりに努力した。

 その一つが「30分ルール」。事件・事故は30分以内に上司に報告するようにしているという。休日も夜間も関係ない、というところがすごい。何かが起きたとき、実際に見えているのは氷山の一角だと考え、想像力を発揮して常に最悪の事態を想定する。

 危機管理は「トップの姿勢」が大事だと強調している。「マスコミは悪いことも出さないと、いいことも書いてくれない」とも。ネットを見ると、最近明らかに足立区のイメージがアップしている。この区長のパワーが大きいのかもしれないと思った。

  • 書名 自治体不祥事における危機管理広報
  • サブタイトル管理職の心得と記者会見までの対応
  • 監修・編集・著者名田中 正博 著
  • 出版社名第一法規株式会社
  • 出版年月日2018年7月11日
  • 定価本体1850円+税
  • 判型・ページ数A5判・188ページ
  • ISBN9784474062504

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