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73年前の今日「最後の特攻」が出撃した...女性二人を乗せて

妻と飛んだ特攻兵

 テレビドラマにもなったので見た人も多いだろう。終戦直後に妻を乗せて特攻機で飛び立った軍人の物語。ドラマでは堀北真希さんが妻を、成宮寛貴さんが夫を演じた。本書『妻と飛んだ特攻兵――8・19満州、最後の特攻』(角川文庫)がその原作だ。

「まさか」と耳を疑った

 著者のノンフィクション作家、豊田正義さんが「夫婦で特攻」の話を耳にしたのは、2010年の夏だった。最初は「まさか」と耳を疑ったが、調べを進めるうちに事実と分かった。元陸軍少尉・谷藤徹夫(22)と妻の朝子(24)。確かに二人は1945年8月19日、「最後の特攻」を敢行していた。

 何しろそれまで世間に知られていない。資料もない。そこで豊田さんはあちこち関係者を訪ね歩く。そしてついに親族の家から昔の手紙や写真、履歴書、新聞の切り抜きなどを見つけ、こんな「証明書」も入手した。

「元陸軍少尉・谷藤徹夫の妻は昭和二十年八月十九日午後二時、満州國錦州省黒山縣大虎山飛行場より神州不滅特別攻撃隊の一員たる夫谷藤徹夫の操縦する飛行機に密かに搭乗し、敵ソ連軍戦車隊に突入自爆しました。夫徹夫に追従し自爆戦死せる事を証明します」

 元大虎山飛行場隊長陸軍大尉・蓑輪三郎の名で書かれていた。本人の直筆だと確認できた。それにしてもなぜ満州で特攻なのか。なぜ「夫婦」でやったのか。豊田さんは解明に取り掛かる。

ソ連の侵攻で満州は大混乱

 結論から言えば、満州では少年飛行兵の訓練が行われていた。戦争末期になっても、空襲の恐れがなかったからだ。「陸軍特別操縦士官(通称・特操)」の一期生、谷藤徹夫はそこの飛行教官だった。学徒出身で43年10月に、陸軍飛行学校に配属されていた。

 昭和20年に入り、いよいよ戦況が悪化する中で、教え子や仲間の教官が特攻隊員として次々と沖縄方面に向かって飛び立っていく。「俺も、すぐに行くからな--」が見送りの言葉だ。すでに結婚していた徹夫には、故郷から妻を呼び寄せてよいという許可が出る。

 8月9日、ソ連の侵攻で満州は大混乱に陥った。満州国軍の兵士は反乱を起こし、中国人も襲ってくる。各地で繰り広げられるソ連兵らの「蛮行」。15日の玉音放送の直後に「武装解除」の命令が出たが、「このまま死ねるか」。19日、谷藤ら11機が「軍紀違反」を承知の上でソ連の戦車隊に向かって「最後の特攻」に出撃した。そこには谷藤の妻ともう一人、隊員たちがよく利用していた飲食店の女性「スミ子」もいた。スミ子については詳細が分かっていない...。

 本書は壮大なノンフィクションになっている。まず谷藤徹夫の生まれ育った下北半島から説き起こす。戊辰戦争に敗れた会津藩の人たちが押しこめられた寒冷地。そこから後の陸軍大将・柴五郎が生まれる。『ある明治人の記録』で有名だ。徹夫も柴五郎のような立派な人物になれ、と子どものころから言われていた。

 本書は戦争に至る経緯や、敗戦までの各地の戦況、満州国の内情などについても詳しい。BOOKウォッチでは著者の豊田さんの『ベニヤ舟の特攻兵』も紹介済みだ。いずれも著者の執念がこもる大変な労作だ。

  • 書名 妻と飛んだ特攻兵
  • サブタイトル8・19満州、最後の特攻
  • 監修・編集・著者名豊田 正義 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2015年3月25日
  • 定価本体680円+税
  • 判型・ページ数文庫・421ページ
  • ISBN9784041027561
 

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