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読ませるためにはイライラさせて興味をそそる

心理学者が教える 読ませる技術 聞かせる技術

 IT時代の現代ではブログやSNSの広がりで、いろんなひとが絶え間なく何かしらの表現をし続けている。書き方、話し方など表現のための参考図書も数多い。本書『心理学者が教える 読ませる技術 聞かせる技術』(講談社)は、それら類書について「『こうすればわかりやすくなる』ということはていねいに書かれている。しかし『なぜ』がない」ことを憂う。

人間は高度な情報処理システム

 心理学者である著者は、人間は、しばしばコンピューターにたとえられるように、高度な情報処理システムとみる。情報を人間に理解しやすくなるためには、情報処理システムとしての人間が、入力情報をどうやって「わかる」ようになるのか、そのメカニズムについて学ぶべきという。このことの理解なしに無造作に情報やメッセージが発信されるため、世の中にはわかりにくい表現があふれることになるという。

 著者の海保博之氏は、分かりやすい表現とヒューマンエラーの心理学研究が専門。筑波大学や東京成徳大学の名誉教授で、著者に『「ミス」をきっぱりなくす本』『くたばれマニュアル! 書き手の錯覚、読み手の癇癪』などがある。これまで「見たり、覚えたり、考えたりする人間の頭の働き」である人の認知機能にについて研究。その基本テーマの一つは「わかる」という頭の働きを探ることであり、そこから得られた知見を動員して、効果的なコミュニケーション、上手な表現のための技術について論じてきた。本書は、1988年刊の著書『こうすればわかりやすい表現になる』新装版。

「2貯蔵庫モデル」

 認知心理学には、人間の情報処理システムとして「2貯蔵庫モデル」という基本的なモデルがあるという。「短期記憶貯蔵庫」と「長期記憶貯蔵庫」の2つの貯蔵庫があり、両者の間での情報のやり取りで、理解や知識化が行われている。

 短期貯蔵庫で行われることは、外からの情報を理解・貯蔵のための符号に変換すること。この処理のためには、長期貯蔵庫に符号化に必要な知識があらかじめ貯蔵されていなければならない。符号化が効率よく行われるためには長期記憶の知識が豊富になることが必須だ。そして短期貯蔵庫で符号化されたものは知識として長期貯蔵庫に蓄えられ、蓄えてはそれをあらたな符号化のために使うという具合に、短期と長期との間では転送が活発に行われている。

 長期貯蔵の期間は永久と考えられており、思い出せないということが起こるのは検索が失敗したためとみられる。長期貯蔵庫では、長い間使われなかった情報は奥に追いやられ、一緒に使われる情報と近接して置かれるようになったり、一つに圧縮されるなどして貯蔵状態を変え知識となる。貯蔵庫の容量はほぼ無限という。

わからない状態を導く

 「入力された情報が、長期記憶の知識と同化したときにわかったとなる。完全にわかってしまえば、『なるほどそうか』でおしまいになる」と著者。相手の興味をそそるのは、わからない状態が発生したときだ。つまり、長期貯蔵庫にある既有の知識を調節する必要が生まれ、わかるようになりたいという気持ちがわくようなったとき。

 だが、接した情報が短期貯蔵庫でまったく処理できなければ興味はわかない。道路の案内板、上司の指示、学会での発表、講演など、わかりにくいと感じる情報があふれているように感じるのは、それらが、多くの人にとって、理解の意欲をもよおすようなインセンティブが示されていないからといえるだろう。

 情報そのものに興味をそそる、あるいは知的好奇心を刺激する要素がないような場合はどうするか。ひとつには「認知的に不協和な状態」を招くことが考えられる。たとえば「犬が人をかむ」ことを伝えるため、まず「人が犬をかむ」ことをツカミにする。「『人が犬をかんだ』は、人、犬、かむという個々の要素は照合できるが『誰が』『誰を』のリンクで逆転しまい知識全体がうまく照合できず、この部分を何とかしないとおさまりがつかない」。そこで聞いている方はグンを身を乗り出してくる。

 「人が犬をかんだらニュース」というのは、英ジャーナリストの言葉で、世界各国の報道界で、報道すべき話のたとえとしてしばしば使われる。

 ブログやSNSの表現者として、多くの人が「記者」として活動している時代。本書を通読すると、あふれる情報のなかで、どう発信すれば読んでもらえるか、耳をかたむけてもらえるかが見えてきそうだ。

  • 書名 心理学者が教える 読ませる技術 聞かせる技術
  • サブタイトル心を動かす、わかりやすい表現のコツ
  • 監修・編集・著者名海保 博之 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年7月18日
  • 定価本体1000円+税
  • 判型・ページ数新書・240ページ
  • ISBN9784065124635
 

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