日本にはおよそ3400の出版社がある。一般には知られていないが、信念に基づいて豊かな本づくりに力を注ぐ出版社も少なくない。本書『小出版社の夢と冒険』(出版メディアパル)は、業界通のベテラン書店員が、そうしたユニークな出版社を紹介したものだ。
こう書くと、なんとなく当たり前になってしまう。本書のユニークさが浮かび上がってこない。やや残念。では何がユニークなのか。
本書はもともと、韓国の雑誌に連載され、韓国版が先に出版されたものなのだ。いわば逆輸入本。きわめて珍しい。
最初は、韓国出版マーケティング研究所が発行している出版業界誌「松仁消息」(のち「企画会議」に名称変更)に2003年1月から05年12月まで、「日本の小出版社巡礼」というタイトルで連載され、07年3月、『出版精神で武装した 日本の小出版社巡礼記』という書名で同研究所から出版された。それをもとに増補して07年11月、日本で『書店員の小出版社巡礼記』として発売され、反響を呼んだ。本書はその復刻「普及版」。タイトルを変え、再出版されたものなのだ。
経緯を振り返ると、韓国出版界の日本への関心がわかる。おそらくは日本から何かを学ぼうとしたのだろう。本書が日韓出版界の交流に大きな貢献をしたことは間違いないと確信する。
著者の小島清孝さん(1947~2006)は山形県生まれ。國學院大學第二文学部史学科を卒業して東京堂書店に入社、神田本店勤務、外商部等を経て、取締役外商部長を務めた。著書に「書店員の小出版社ノート」などがあり、出版業界のウォッチャーとして知られていた。書店勤務ということもあって平日が休日。そのときにコツコツと小出版社をたずね、連載を続けたという。
小島さんは、出版労連の機関誌に1997年から2006年にかけて「本の目利きNOTE」という書籍紹介も続けていた。日本版を出す時に、それも含めて出版された。そのため「第1部」で「日本の小出版社巡礼記」として32社、「第2部」で「本の目利きNOTE」から62社の62点が収められている。
「第一部」では、作品社、現代書館、彩流社、藤原書店、七つ森書館、工作舎、暮しの手帖社、青弓社、社会評論社、ドメス出版など知られた名前も多い。そこで取り上げきれなかった小出版社の本についても、第二部の書籍紹介の中で触れられている。たとえば田辺元著『歴史的現実 こぶし文庫28』の紹介文では、「こぶし書房」について書き込んでいる。
「社員五名。全員が編集と営業の両輪をこなす出版社、こぶし書房。同社は、六五年三月、ある集団の思想的リーダーでもある黒田寛一さんによって創業された。自著を刊行する場としてである。以来、特定の読者との結びつきによって成り立ってきた。...戦後五〇年にあたる九五年から同社は、従来のイメージを超えるべく出版活動の幅を広げる道筋を展開する。戦前から戦後にかけて刊行された京都学派等の名著・力作を中心に、ルビを振るなど、読みやすい形で復刻刊行する『こぶし文庫』シリーズの創刊である」
この一文を読むだけで、本書の著者、小島さんが相当な業界通で、目配りの幅が広い人だということがわかる。取り上げられている本は、全国紙の書評などからこぼれている本が少なくない。実際、小島さんは、個人として日本に「アウシュビッツ平和博物館」を建設すべく、良心的な活動でも奔走した人のようだ。
本書は索引も充実している。いわば「小出版社」についての事典のようにもなっている。本欄で以前紹介したが、戦前戦後の42本の作品をリスト化した『反戦映画からの声』(弦書房)と同じように、参照用に便利なので、手元に置いておきたい本である。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?