東京から常磐自動車道を走り、福島県のいわき市を通過するあたりから路肩に放射線量を表示する電光掲示板があらわれ、ドキっとする。人体に影響がないレベルだからこそ、通行が可能になっているのだが、この一帯がいまだ放射能汚染の可能性があることを実感する。
本書『地図から消される街』(講談社現代新書)は、東日本大震災の直後から現在まで被災地の福島などに通い、継続的に取材を続けている朝日新聞記者の青木美希さんの報告記だ。タイトルの「地図から消される街」は、福島県の浪江町、富岡町などで避難指示が解除されたにもかかわらず4.3%の人しか帰還せず、地元では街が消えるのではと心配している状況を表している。サブタイトルは際物風だが、中身はきわめてまともだ。
いろいろな被災者の姿が記録されている。夫を福島に残して子供とともに東京に避難した女性は、心因性のストレスで働けなくなり、住宅提供も打ち切られ自殺した。県外に避難した人たちは県内に残った人たちから「わがまま」と非難され、被災者たちがふたつにわかれ対立している。
青木さんは朝日新聞の原発事故検証企画「プロメテウスの罠」とスクープだった「手抜き除染」報道の取材班として、それぞれ日本新聞協会賞を受賞している。以前、北海道新聞に在職していた時も警察担当として北海道警裏金問題の報道で同賞を受けている。つまり新聞協会賞を3度受賞しているのだ。これはきわめて稀有だ。
本書も単なる現地ルポというレベルを超えて、原発が事故後も必要とされる国策の意図を探るなど、ディープに原子力の構図に迫っている。すでに何発も核爆弾が作れる相当量のプルトニウムが国内にあり、アメリカに引き渡さないために原発を続けるしかない、という原子力村の重鎮の話には戦慄を覚えた。
また青木さんは、一昨年(2016年)明らかになった首都圏に福島県から転校した児童、生徒がいじめにあっている被害を特報し、その取材経緯を本書で明かしている。「原発」「フクシマ」について、これだけ継続的かつ広範囲に取材している記者は数少ない。
JR東日本は、被災地の一部で不通となっている常磐線を2020年に全通させる見通しだ。しかし駅が再開されても乗り降りする人がいるだろうか。通行車両があまりに少ないため実質的に無料の高速道路となっている国道6号沿いのゴーストタウンのような光景を見るたびに、この街に人が戻る日はくるのだろうかと思う。
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