戦前の海軍であった「水からガソリン」事件――偉人として伝わる山本五十六(当時は海軍次官)が、詐欺にまんまとひっかかり、その片棒を担ぐ役回りを担ったことがさらに関心を高めた。石油精製会社勤務から近代史家に転じた著者の山本一生さんは、阿川弘之氏の伝記「山本五十六」にも書かれた同事件に興味を持ち独自の調査を行い、海軍首脳らをみごとにだました詐欺師の正体に迫った。
このノンフィクションを仕上げに導いたのは、ある文献の発見だった。「水ヲ主体トシ揮発油ヲ製造スルト称スル発明ノ実験ニ関スル顛末報告書」。防衛省防衛研究所の史料の中から見つかったもので、作成者は、実験に立ち会った大西瀧治郎大佐で、表紙にはマル秘の判が押されていた。日付は、昭和14年(1939年)1月。報告書は、ふいに姿を現した、という。
著者は序章で、この報告書を「事件の終着駅として、稀代の詐欺師の足跡をたどろうというのが本書の目論見」と述べている。
評者の書評家、東えりかさんは、当時は石油の9割を海外依存せざるを得なかったことなど脆弱な基盤しかなかった燃料事情にふれ、「軍部は『水からガソリン』の話を信じたかったのだ」と、詐欺がうまくいくお膳立てがあったことを紹介。「日本の戦史の裏側を飾る茶番劇は、可笑しくも物悲しい物語であった」と述べている。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?