本を知る。本で知る。

「戸籍」の過去と現在、これからを問う

書評掲載元:文藝春秋 8月号 書評

戸籍と無戸籍

 日本人にとって戸籍とは何か。簡単に言えば、家族の系図を記した証文のようなものだろう。役所の戸籍係と自分の親族だけの秘密の証文。結婚や身内の不幸があると、役所に出向いて修正する。
 長い間、どの国にもあるものだと勝手に思い込んでいた。ところがいつだったか、実は日本以外にほとんどない、ということを知って驚いた記憶がある。

「日本人」とは誰なのか

 戸籍を公開しろ、とか、しないとか。最近は、民進党の蓮舫代表の「二重国籍」問題で改めて注目を集めた。他人事で恐縮だが、テレビカメラの前で戸籍の公開を強いられるとは・・・。何となく「いやな感じ」がして目をそむけた。(だから蓮舫氏が、見せたかどうか、知らないのだけれど)
 本書は、そんな日本の戸籍制度の成り立ちと現状、問題点についてたっぷり書き込んでいる。要するに、「日本人」とは誰なのか。何を持って日本人と言うのか―。
 著者は1972年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科の大学院時代から戸籍問題に取り組んできた。これまでに『近代日本の植民地統治における国籍と戸籍-満洲・朝鮮・台湾』(明石書店、2010年)、『戸籍と国籍の近現代史-民族・血統・日本人』(明石書店、2013年)などを出版。近隣諸国との戦前の関係も調べ上げ、戸籍を通じた同化と差別の歴史をたどってきた。

「血筋のネットワーク」にこだわる

 国民一人ひとりからすると、戸籍は血筋の証文に過ぎない。だが、それを統括する側の目で見ると、また違った姿が浮かび上がる。近代国家の多くが、個人のデータを集積する「国民登録制度」にとどまっていたのに、なぜ明治の日本は「血筋のネットワーク」にこだわったのか。 文藝春秋8月号の書評で、評者の評論家片山杜秀氏は語る。
 「明治維新は西洋化革命であると同時に王政復古だった。天皇親政の古代を現代に蘇らせるのも明治の大テーマだった」「そこで実際に蘇ったものに戸籍制度がある」。そして、「日本人は、万世一系の皇統をスケールダウンしたかたちで、自分の家の伝統を戸籍からイメージするのだ」と。
 急速に進む国際化。外国人と思われる人々を目にする機会も増えてきた。無国籍や移民、帰化・・・。戸籍を基に国民を統べている日本はどうなっていくのか。タイムリーでもあり、いろいろと考えさせられる本である。

  • 書名 戸籍と無戸籍
  • サブタイトル「日本人」の輪郭
  • 監修・編集・著者名遠藤 正敬 著
  • 出版社名人文書院
  • 出版年月日2017年5月20日
  • 定価本体4,200円+税
  • 判型・ページ数四六判・380ページ
  • ISBN9784409241172
 

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