自分で自分の体を肯定的に捉える「ボディ・ポジティブ」という考え方。大切なこととはわかっていても、できるようになるのはとても難しい。そんなとき、自身の体型を活かして輝いている人の体験談が参考になるかもしれない。
『コンプレックスをひっくり返す 見た目の悩みが軽くなる「ボディ・ポジティブ」な生き方』(旬報社)は、プラスサイズモデルとして活躍する吉野なおさんが、見た目に関するコンプレックスに悩み続けてきた自身の経験を振り返り、同じように苦しんでいる人に向けて自分のコンプレックスを見つめ直すきっかけを与えてくれる1冊。
体型を気にし始めた小学生の頃から、プラスサイズモデルという仕事に出合うまでの吉野さんの半生を追いながら、自分のコンプレックスとの向き合い方について新しい視点を与えてくれる。
小学生の頃から、ぽっちゃりした体型について周囲の友達や大人たちから心ない言葉をかけられてきたという吉野さん。
高校卒業後は一時的にマイナス30キロのダイエットに成功するも、「人は見た目が大事」という考えの彼氏と交際した経験から、より容姿コンプレックスが加速してしまった。
「太っていた過去の自分や他人を心の中で見下すようになっていたのです。昔、あんなにいやだと思っていたいじわるな人間に、私もなってしまいました」
そんなふうに見た目に悩み続けていた吉野さん。摂食障害も患い、職場のストレスがきっかけで過食衝動を抑えられなくなってしまった。当時の心境を、吉野さんはこう振り返る。
「まるで、本来の自分がせまい操縦席に座り、『私のからだ』というロボットに乗って、外側の世界を見ているようでした」
そんな中、吉野さんの「人生を変えたターニングポイント」となる、思いがけない出来事が。
当時、デスクワークの仕事をしていた吉野さんが、業務の一環でたくさんの人のプロフィール写真を見ていたときのことだ。毎日、たくさんの人の全身写真と顔写真を規定のサイズに調整していく業務に取り組んでいた。
数千人の写真を見ているうちに、「一人ひとりの姿形がまったくちがうという当たり前のこと」に気がついたのだそう。顔の造形はもちろん、耳や鼻、体のシルエットもみんな違っていた。
さらに吉野さんにとって衝撃的だったのは、ぽっちゃり体型の女性も笑顔で写っているプロフィール写真。それを見た吉野さんは、ぽっちゃりした体型の人に対して、これまで自分が無意識に抱いていたネガティブなイメージを疑うことができるようになったそうだ。
その後、過食症から回復した吉野さんは、ぽっちゃり女子のためのファッション誌「ラ・ファーファ」(文友舎)に出合う。その読者モデルにスカウトされたことから、現在の吉野さんの活躍へとつながっていく。
吉野さん自身、思春期の頃に自分が着られるサイズの服がお店になく、「自分が女性として存在できない」と感じていた。「もうあの思いを次の世代には残したくない」という強い気持ちで、プラスサイズモデルの仕事に挑んだ。
「ラ・ファーファ」1号目が発売された当時は、吉野さんが予想していた通り、嘲笑い、からかうような反応があったという。しかし、それをはるかに上回っていたのは、かつての吉野さんと同じ悩みを持つ読者からの好意的な反響だった。
「こんな雑誌を待ってました」
「太ってふさぎこんでいたけど、おしゃれできることを知って前向きになりました」
吉野さんは、体型などが原因で自分を好きになれず悩んでいる読者に向けて、次のようなメッセージを贈っている。
「そうして自分についてなやんでいる時点で、もうすでにあなたは自分のことを大事にしたいと思っているということです」
「物事の価値観は、条件を変えると真逆にひっくり返ったりします。だから、あなたがいま思う『美しさ』も、実は世界中で数多くある『美しさ』の一つであって、それだけが正解ではないということです」
■吉野なおさんプロフィール
よしの・なお/プラスサイズモデル、エッセイスト。2013年より、雑誌「ラ・ファーファ」(文友舎)でプラスサイズモデルとして活動を開始。モデルとして活動する以前に摂食障害を患った経験から、身体にまつわる「あたりまえ」をゆるがせて「自己否定」から抜け出すアプローチを発信し続けている。FRaU web、ヨガジャーナルオンラインでコラム連載中。
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