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50歳、「人生なんてあっという間」。でも...。共感誘うおすすめエッセイ。

行きつ戻りつ死ぬまで思案中

『老後の資金がありません』『姑の遺品整理は、迷惑です』『もう別れてもいいですか』......。様々な社会問題をテーマに小説を書いてきた垣谷美雨さん。ポロッと漏れた心の声のようなタイトルがリアルで、どれも決して他人事とは思えない。

 本書『行きつ戻りつ死ぬまで思案中』(双葉社)は、垣谷さん初のエッセイ集。人づきあい、老後、家族、自分......日々「思案中」のあれこれをつづった71篇からなる。発売以来、その独自の視点に共感した読者の声が続々と届いているという。

 小説は「痛快」「溌剌(はつらつ)」という印象が強かったが、エッセイはまた一味違った。「小心者で心配症」「生まれついての『考えすぎ人間』」と書かれているが、垣谷さんのセンシティブで思慮深い一面も見えてくる。

「エッセイという怪物は小説とは似て非なるもので、(中略)少なくとも私にとっては小説の何倍も大変な精神労働だった。(中略)そしてそのうち、エッセイは『あなたはいつだって精一杯頑張ってやってきたよ』と言ってくれている気がして、いつの間にか自分を慰める役割を負っていることに気づいた。」

心の中をじっくり解剖

 以前勤めていた会社の後輩女性が、ある小説の感想を言ってきた時のこと。「やっぱり女同士って、陰で何を言われているかわかったもんじゃないですね」。著者である垣谷さんはぽかんとした。女同士の陰湿な場面など、書いたつもりはなかったからだ。

 垣谷さんは時々、ネットで読者レビューを読むという。「ストーリーがうまくいきすぎ」「リアリティがない」との批判を目にするたび、モヤモヤしていた。そして10年間モヤモヤした結果、小説には書き手の経験や性格が反映されるだけでなく、読み手の性格や考え方も浮かび上がるのだと考えた。

「リアリティがないと決めつけるのは、読者が知っていることや想像できる範囲を超えているということだ。そして自分の考えと一致するところを見つけては共感し、その部分が強く印象に残る。」

 たしかにそうかもしれない。本でも何でも、レビューやコメントを読むたびに感じ方は人それぞれだなと思う。垣谷さん自身、同じ小説を20代で読んだ時は「なんて鋭い著者なのだろう、本当に人生勉強になる」と感じたが、40代で読んだ時は「なんと軽薄で浅慮な著者だろう。長年だまされていた気分だ」と言いたくなったそうだ。

 このように、落ち込んだ時は「心の中をじっくり解剖」するのが垣谷さん流。原因がはっきりすると、精神的にぐっと楽になるという。

10年後の自分が叱るだろう

 人生の残り時間が少なくなっている......。そう意識してからというもの、垣谷さんは知識欲が抑えきれなくなり、手当たり次第に本を読むようになったそうだ。

 たとえば『鴻上尚史のほがらか人生相談』に、残り少ない人生の生き方のヒントを見つけたという。それは「十年後の自分がタイムマシンに乗って現在に来たと考えろ。」というもの。白髪も皺も少ない60代の自分を見て、70代の自分はこう叱るだろう、と想像している。

「六十一歳なんてまだまだ若い。新しいことにも挑戦できたんじゃないの? それなのに私は、六十代という若くて貴重な十年をぼうっと過ごしてしまった。なんてもったいないことをしたんだろう。」

 一方、ボーヴォワールの『老い』の辛辣な箇所にショックを受けたという。それは「人が六十歳を過ぎて書くものは、まず二番煎じのお茶ほどの価値しかない。」というもの。垣谷さん自身、「またしても同じ内容だな」「この人の書くものはもう読む価値なし」と判断したら、好きだった作家でも追いかけなくなるそうで......。

「私はデビューが遅かったが、それでもそろそろ方向転換しろと言われているのではないかと思うことがある。(中略)小説を書くうえで、『老い』を良い方向への大転換期としたいと、日々模索しております。」
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 ある有名人のエッセイを読んだ時、「そんなきれいごとを読まされたってねえ」とシラケてきて、途中から猛スピードの斜め読みになった......など、痛快な書きぶりは健在だ。

 本書は、垣谷さんならではのエピソードもあれば、自分がぼんやりと感じていたことがズバッと書かれている箇所もあった。親近感、共感、爽快感が味わえるところが、小説にもエッセイにも通底している。

「人生なんてあっという間だと、五十歳になった頃から実感するようになった。だが、その『あっという間』の中に、実は走馬灯に映し出される色とりどりの絵のごとく、たくさんの喜怒哀楽があり、今まで生きてきた年月が実際は長かったのだとエッセイは教えてくれた。」

■垣谷美雨さんプロフィール
かきや・みう/1959年兵庫県生まれ。明治大学文学部卒業。2005年「竜巻ガール」で、第27回小説推理新人賞を受賞。著書に『リセット』『夫のカノジョ』『結婚相手は抽選で』『あなたの人生、片づけます』『姑の遺品整理は、迷惑です』『老後の資金がありません』『夫の墓には入りません』『もう別れてもいいですか』『代理母、はじめました』など多数。




 


  • 書名 行きつ戻りつ死ぬまで思案中
  • 監修・編集・著者名垣谷 美雨 著
  • 出版社名双葉社
  • 出版年月日2023年4月22日
  • 定価1,760円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・264ページ
  • ISBN9784575317923

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