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「いまから殺しにいくから」と連絡が。歌舞伎町を生きる人々を追うノンフィクション

歌舞伎町アンダーグラウンド

 「不夜城」と呼ばれる日本一の歓楽街・歌舞伎町。東京都新宿区の靖国通り、明治通り、職安通り、西武新宿通りに囲まれた四角いエリアに、ホストクラブ、キャバクラ、ラブホテル、ヤクザが出入りする飲み屋や違法カジノなどが集まっている。

 この街に生きる人々を追い、夜の世界の裏事情や、波乱の人生の数々をおさめたのが『歌舞伎町アンダーグラウンド』(駒草出版)だ。現役のホストやキャバ嬢から、ヤクザや「ぼったくりの帝王」まで登場する。著者の本橋信宏さんは、山田孝之さん主演で配信ドラマ化された『全裸監督』(新潮社)などの著書があり、これまでに上野、新橋、高田馬場の「アンダーグラウンド」シリーズを刊行している。

刑務所は天国ですよ

 本書は、44人が亡くなった2001年の明星56ビル火災の取材をきっかけに、事件を知る人物や、その周辺で生きる人々の話を本橋さんが聞いて回ってまとめたものだ。

 なかでもひときわ存在感を放つのが、「ぼったくりの帝王」こと影野臣直(とみなお)さん。1990年代に、ぼったくり集団「Kグループ」を率いて歌舞伎町内で5店舗を経営していた。ぼったくりのシステムは、キャッチというフリーランスの客引きが嘘の金額で客を店に引っ張り込み、酒を飲ませた後に高額の代金を要求するというもの。一般客を装った女性が男性に声をかけ、「私の知っている店に行こう」と連れ込む、ガールキャッチという手法もある。

 影野さんの成功の一因には、人懐っこさがある。ぼったくった客と一緒に酒を飲んだり、からかったりして仲良くなり、恨みを買って揉めることがなかったのだ。200万円取った客とも、たびたび遊ぶ仲になったとのこと。さらに、警察にもお金を渡したり毎月ゴルフに行ったりして、「少々のことではパクられ」ないようにしていたと話す。

 1999年、「梅酒1杯15万円」というぼったくりが問題になり、影野さんは逮捕された。新潟刑務所に4年6カ月服役したが、そのときをこう振り返る。

「天国でしたね。皆さんも一度入ってみるといいですよ。娑婆で食うメシより低カロリーで健康的だし、刑務所ダイエットって呼んでるんです」

 「帝王」はどこまでもひょうひょうとした人物だ。出所後、現在に至るまで、歌舞伎町や裏社会を書く作家として活動している。

殺害予告3回受けた

 影野さんの紹介で、現役ヤクザにも話を聞いている。関東有数の規模の組織にいて、脱会派との抗争があった際、ヒットマン(暗殺者)となった人物だ。どうやってヒットマンになったのかと聞くと、「察して動いた」結果だという。

「今度はお前だから行ってこいなんていうのでは、おしまいです。ここは、俺が行かなきゃしょうがない、いまだなチャンスは、と自分で感じ取って動かなければ、出世の目はないですね」

 ヤクザは、親分の目や顔色を読んで行動する人が出世していくのだそう。本書ではこのヒットマンが、トカレフを携えて東北へ行った一部始終を臨場感たっぷりに語っている。

 また、歌舞伎町といえばホストやキャバクラ。新宿駅周辺では毎日、彼ら彼女らの顔写真の載った大型トレーラーが走っている。グループで2年連続年間売り上げナンバー1という人気を誇るホスト(取材当時。現在は引退)Hikaruさんは、こんな体験談を明かしている。

「ホテルで女の子とイチャコラしてるときに、口論になって『じゃあ帰るわ!』って女の子が出て行っちゃったんです。まあいいかなと思ったら、『どこどこホテルの何号室だよね?』ってLINEが来て、どうしたの?って聞いたら、『いまから殺しにいくから』って、包丁を買ってる写真を送ってくるんです。ダッシュで部屋を出た思い出があります」

 さらに、区役所通りのキャバクラで連続指名1位を維持する人気キャバ嬢黒宮ちはやさんは、「殺害予告三回受けたことあります」と告白。実際に、ホストやキャバ嬢が刺される事件は後を絶たない。夜の世界は常に危険と隣り合わせだ。それでも黒宮さんは、「昼の子たち」はデリケートで付き合いづらく、キャバクラで働く人たちのほうが好きなのだと言う。

 さまざまな事情を抱えた人々が流れ着いてくる街、歌舞伎町。本書は「怖そう、でも覗いてみたい」という、「昼」の人間の好奇心を満たしてくれる一冊でもある。元AV女優のバー店主や、70~80年代に街の「水先案内人」だった男性など、まだまだ濃い顔ぶれがたくさん。人間模様と時代を巡る旅の中で、本橋さんが見た景色とは。

【目次】
プロローグ
第一章 歌舞伎町最大の惨劇を追う
第二章 ぼったくりの帝王と入れ墨の女王
第三章 不夜城の出自
第四章 ヤクザの街で暮らす女
第五章 職場は歌舞伎町
第六章 キャバクラ嬢、半生を語る
第七章 ホストの群れ
第八章 稼業の男たち
第九章 様々な色恋
第十章 旅の終わりに
あとがき

■本橋信宏さんプロフィール
もとはし・のぶひろ/1956年埼玉県所沢市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。集合写真で、「一人おいて」と、おかれてしまった人物、忘れ去られた英雄を追いつづける。執筆内容はノンフィクション・小説・エッセイ・評論。
主な著書に『裏本時代』『AV時代』(以上、幻冬舎アウトロー文庫)、『新・AV 時代悩ましき人々の群れ』(文藝春秋)、『心を開かせる技術』(幻冬舎新書)、『<風俗>体験ルポ やってみたら、こうだった』『東京最後の異界 鶯谷』『戦後重大事件プロファイリング』(以上、宝島SUGOI 文庫)、『東京の異界 渋谷円山町』(新潮文庫)、『上野アンダーグラウンド』『新橋アンダーグラウンド』『高田馬場アンダーグラウンド』(以上、駒草出版)、『エロ本黄金時代』(東良美季共著/河出書房新社)、『全裸監督 村西とおる伝』(新潮文庫)、『出禁の男 テリー伊藤伝』(イースト・プレス)等。





 


  • 書名 歌舞伎町アンダーグラウンド
  • 監修・編集・著者名本橋 信宏 著
  • 出版社名駒草出版
  • 出版年月日2023年4月21日
  • 定価1,760円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・404ページ
  • ISBN9784909646668

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