毎年、日本で開かれているイタリア映画祭。2023年は23回目を迎え、5月から6月にかけてイタリア映画の新作14作品が上映される。本書『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』(集英社)は、今も続くこの映画祭を立ち上げた古賀太さんによるイタリア映画の入門書だ。平易に書かれているので、門外漢でも理解しやすい。
今年のイタリア映画祭は、東京では5月2~7日(有楽町朝日ホール)、大阪では6月10~11日(ABCホール)に開かれる。毎年、1万人あまりの熱心なイタリア映画ファンが訪れる。 著者の古賀さんは、2001年に始まったこの映画祭の仕掛け人だ。
この年は前々から、「日本におけるイタリア年」ということが設定され、イタリアがらみの多数のイベントが行われることになっていた。そのため、イタリア大使館はふさわしい企画を探しており、朝日新聞社の文化事業部にも事前に「何か企画を出してほしい」という依頼があった。
当時、同社文化事業部で働いていた古賀さんは、イタリア映画の新作選とイタリア映画史をたどる特集の2つの映画祭の企画を出した。それらが採用され、「イタリア年」に、「イタリア映画祭2001」と「イタリア映画大回顧」という形で具体化した。「映画祭」は好評で、その後も毎年、ゴールデンウィークごろに開催が続いている。
古賀さんは04年には「ヴィスコンティ映画祭」を企画、イタリア映画祭は07年まで担当し、以降は後輩が引き継いだ。
古賀さんは1961年生まれ。大学や大学院でフランス文学やフランス映画を学び、フランスに留学もした。最初の就職先は国際交流基金。そこで文化交流の仕事に携わり、その後、朝日新聞社の文化事業部へ。展覧会や映画祭など文化催事を企画運営した。その後、朝日新聞社の文化部記者の仕事も経験。2009年からまた職場を替え、日本大学藝術学部映画学科の教授になった。
朝日新聞時代には、文化交流への貢献が讃えられ、フランス政府とイタリア政府から勲章を授与されている。
終身雇用制が崩れ、専門的な能力を持つ人材を求める「ジョブ型雇用」へのシフトが叫ばれているが、古賀さんの事例はその先駆けでもある。
本書は以下の構成。
序 章 イタリアが映画大国であるわけ
第一章 百花繚乱のサイレント時代
第二章 イタリア映画の隆盛を準備したファシズム期
第三章 ネオレアリズモの登場
第四章 変容するネオレアリズモ
第五章 若手監督たちの登場
第六章 鉛の時代
第七章 イタリア映画の黄昏
第八章 二一世紀のイタリア映画
「自転車泥棒」「道」「荒野の用心棒」「ベニスに死す」「ニュー・シネマ・パラダイス」「ラストエンペラー」・・・日本人も大好きな名作が山のようにあるイタリア映画。古賀さんはその特徴を、「地方色」「リアリズム」「ファンタジー性」「国際性」としている。
特に「地方色」は、日本人が考える以上に多彩だという。イタリアが現在の形で統一されたのは比較的新しい。そのため地域ごとの風景や建物、習慣や料理などがかなり異なる。特に言語差は大きい。最近の映画でも、ナポリをはじめとする南部で撮影された映画には、イタリア語の字幕が付くことが多いのだという。
イタリア映画は日本で人気があるにもかかわらず、長年「入門書」がなかった。本書はその意味でも貴重な一冊だ。巻末の索引も充実している。
BOOKウォッチでは、古賀さんが美術展の内幕を書いた『美術展の不都合な真実』(新潮新書)のほか、古賀さんの教え子たちが企画運営していた映画祭「映画と天皇」のパンフレット、さらには『パゾリーニの生と<死>』(ミッドナイトプレス)なども紹介済みだ。
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