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「行きつけ」は老化の始まり? 和田秀樹さんが本気で懸念する「前頭葉機能不全社会」の行く末

Mori

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不老脳

 50代を前に、「最近、なんだかやる気が出ない」ということが増えた気がする。もともとバイタリティに満ちたタイプではないが、ここ数年は「やる気のなさ」の度合いが増している。仕事や家事に限ったことではない。新しいお店を開拓しようとか、いつもと違うファッションを取り入れてみようとか、新しいジャンルの映画を観てみようとか、楽しいことでも「まいっか、今度で」となってしまう。「行きつけの店」「私らしいファッション」などと言えば聞こえはいいが、記者の場合は単に考えるのが面倒くさいだけである。

 精神科医で老年医学の専門家、和田秀樹さんはその原因が、脳の「前頭葉の衰え」にあるのではないかと指摘する。

 前頭葉は、大脳の前部に位置し、「人間活動の中心」を担う重要な部位だ。思考力や発想力の源であり、感情をコントロールし、意欲をも司るという。その前頭葉が衰えるとどうなってしまうのか、予防法や回復する方法はあるのか。「前頭葉の衰え」に対する処方箋となるのが、和田さんの新著『不老脳』(新潮社)だ。

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能力も意欲がなくては「宝の持ち腐れ」

 前頭葉には言葉を操る、情報を処理する、感情を制御する、運動機能をコントロールするといった役割があるという。中でも重要なのは「意欲を司る」ことだ。仕事への意欲を失えば頭を使わなくなり、新しいアイディアも出ない。体を動かしたいと思わなければ運動もしないし、おいしいものを食べたいと思えなければ新しいお店の開拓もしないだろう。創造性や分析力や粘り強さに恵まれた人でも、意欲がなければ「宝の持ち腐れ」だと和田さんは言う。

 本書では、「前頭葉の機能不全」で起きることとして以下の7つを挙げている。

・脳の切り替えができない
・変化に気づけない
・ワンパターンに陥る
・アウトプットが上手にできない
・無関心になる
・孤独な状態になる
・やる気が出ない

 個人的には思い当たることが大ありだ。もちろん、身体機能の衰えやホルモンバランスの変化など、ほかにも原因はいろいろと考えられるが、精神科医として老年医学に35年間、携わってきた和田さんが「今もっとも危機感を抱いている」と言うのが「前頭葉の機能不全」という問題だ。

<和田さんコメント>
あなたは今の日本をご覧になっていていかがですか。
わたしが疑っているのは「今の日本人は前頭葉が衰えているのではないか」ということです。
いまや日本人の平均年齢は47.6歳。「平均寿命」ではありません。「平均年齢」がです。実は人間の脳は40代から本格的に老化を始めます。そして、真っ先に老化が始まるのが前頭葉なのです。
社会全体が変化を起こす「意欲」を失い、的確に判断し、創造性を発揮し、社会性や計画性、集中力や思考力といった機能を失えばどうなるか。
わたしたちが今、直面しているのはこの「前頭葉機能不全社会」なのではないか──わたしはそう疑っているのです。

前頭葉を鍛えるための「5か条」

 しかし希望もある。和田さんによれば、いくつになっても前頭葉を鍛えることは可能だという。本書では、そのための5か条を挙げている。詳しい内容は本書で確認していただきたい。

1.「二分割思考」をやめる
2.実験する
3.運動する
4.人とつながる
5.アウトプットを心がける

 巻末にはさらに、「感情老化度セルフチェック」がついている。「最近は、自分から友達を遊びに誘ったことがない」「性欲、好奇心などがかなり減退している」「失敗をすると、昔よりもうじうじと引きずる」「自分の考えと違う意見をなかなか受け入れられない」など計30の項目をチェックすると、「感情年齢」が算出される。実年齢より高い場合は要注意だ。

 和田さんは、同調圧力が一般化し、若者たちが「生きづらさ」や「無理ゲー」、「〇〇ガチャ」と言った言葉で、自身の現在と未来のやるせなさを肯定してしまう社会の根底には、前頭葉機能不全があるのではないかと懸念する。人々が意欲を失い、考えることをやめることで社会が停滞し、さらに状況が悪化していく。そんな悪循環から抜け出すためには、一人ひとりが意欲を取り戻すことが大切だ。

「わたしは何冊もの本を書いてきましたが、本書こそが最もみなさんにお伝えしたいことだったのだと今、痛感しています。
まずはあなたが変わること。そこから日本が変わること。わたしの願いが叶うことを、心から祈っています。」(著者コメントより)

 「前頭葉ねぇ......。気になるけど、まあ、また今度」と思ったあなた。ここはひとつ「やる気」を出して、人間らしさ、あなたらしさを取り戻そう。

■和田秀樹さんプロフィール
わだ・ひでき/1960(昭和35)年大阪府生まれ。東京大学医学部卒、精神科医。立命館大学生命科学部特任教授、ルネクリニック東京院院長。長らく老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『70歳が老化の分かれ道』『80歳の壁』などベストセラー多数。


※画像提供:新潮社


  • 書名 不老脳
  • 監修・編集・著者名和田秀樹 著
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2023年4月17日
  • 定価836円(税込)
  • ISBN9784106109935

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